AWS IoTで何ができる?利用できるサービスやメリット、活用事例

ビジネスシーンで活用される代表的なITインフラが「AWS(Amazon Web Service)IoT」です。クラウドサービスで複数デバイスの一元管理から情報収集、分析、制御などを一貫して対応できるため、幅広い産業で活用されています。今回は、IoTの導入において重要な役割を果たすAWS IoTについて解説します。
この記事でわかること
- デジタル化の進展に伴い、センサーやカメラといったデバイスをインターネットに接続する技術であるIoTがさまざまな場面で利用されている
- AWSにおいてもIoTを利用したさまざまなニーズに対応するために、数多くのサービスが提供されている
- AWSが提供するIoTサービスであるAWS IoTを利用することで、コスト削減、セキュリティやスケーラビリティの向上などのメリットが享受できる
- AWS IoTは、監視カメラといった身近なものからコネクテッドカーといった最先端技術まで幅広く活用されている
※当記事は2025年2月に書かれたものであり、以後に展開された最新情報が含まれていない可能性がございます。
AWS IoTに関する基礎知識
AWS IoTとは、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドサービスで提供される、IoTの実装に特化したサービス群です。IoTは、「モノのインターネット」とも呼ばれ、カメラやセンサー、家電といったモノをインターネットに接続する技術を指します。
AWS IoTは、IoTデバイスを構築するための「AWS IoT Greengrass」、IoTデバイスを一元管理する「AWS IoT Core」など、広い用途に対応したサービスで構成されていることが大きな特徴です。
また、AWS IoTはAWSのマネージドサービスとして提供されており、ユーザー側でIoT対応のシステムや仕組みを導入する必要がないことも大きなメリットです。
さらに、AWS上で構築した仮想サーバやネットワークとの連携も容易であることから、ゼロベースでの導入に比べ、既存システムにIoTを実装する際のハードルも低くなります。
AWS IoTでは、IoTで実現したいニーズに応じて利用するサービスを選定する必要があります。AWS IoTで利用できるサービス群について、この後の章で詳しく解説しましょう。
AWS IoTによって利用できるサービス
AWS IoTでは、数多くのサービスが提供されていることから、IoTの利用で想定される多彩な要件に対応することが可能です。AWS IoTのサービスは、主にIoTデバイスやシステムの構築、IoTデバイスの管理や制御、分析という3つの用途に集約されています。
ここでは、AWS IoTの用途に応じて利用できる主要なサービスについて解説します。
デバイスソフトウェア
AWS IoTには、ネットワークの末端であるエッジ側から接続した機器を操作するデバイスソフトウェアの仕組みが備わっています。ここでは、AWS IoTで提供されるデバイスソフトウェアのサービスについて解説します。
FreeRTOS
FreeRTOSは、小型IoTデバイス向けのオープンソースOSであり、高速でかつ応答が早いことが特徴です。FreeRTOSは当初は独立したサービスでしたが、AWSが買収したことでマネジメントサービスの一つとなりました。オープンソースであることから無料で利用することが可能で、IoTの接続、管理に用いるデバイスの構築作業を迅速に行うことができます。
AWS IoT Greengrass
AWS IoT Greengrassは、AWSがクラウドサービス側で提供するIoTの機能をエッジ側でも利用できるようにするための仕組みです。本来クラウドサービス側で利用する機能をエッジ側で利用することに、大量のデータ通信によるネットワーク負荷を考慮する必要がなくなります。また、データ通信をエッジ側で完結できることから、AWS外への通信に課金されるコストの削減や即時性が求められる処理も可能になるでしょう。
Amazon Kinesis Video Streams
Amazon Kinesis Video Streamsは、スマートフォン、カメラ、ドローンなどのデバイスから動画をAWS側にストリーミングするサービスです。ストリーミングされた動画は、リアルタイムで配信することを始め、長期間の保存する、分析するといったことができます。また、動画データの保管時には暗号化の処理もされることからセキュリティ面でも堅牢な仕組みとなっています。
AWS IoT ExpressLink
AWS IoT ExpressLinkは、IoT機器とAWSを迅速かつ安全につなぐためのサービスです。クラウドサービスとIoT機器の接続には、独自の作りこみが必要になる、意図せずに脆弱性を含んでしまうなどの課題があります。AWS IoT ExpressLinkを活用することで、シンプルかつAWSのセキュリティ要件を満たした形でIoT機器とクラウドサービス間の接続を構築することが可能です。
接続・コントロールサービス
ここでは、AWS IoTにおいてIoT機器周辺の接続と制御を司るサービス群について解説します。
AWS IoT Core
AWS IoT Coreは、多数のIoT機器を一元的に管理するためのサービスです。本来、IoTの仕組みを作り上げるためには相応のスキルと専門知識が求められますが、AWS IoT Coreを活用することで、簡単かつ安全にIoTシステムを構築することができます。AWS IoT Coreは、複数のプロトコルを使ってIoT機器との接続を行うデバイスゲートウェイ、IoTシステムへの不正アクセス等を防止する認証サービスといった機能を備えています。
AWS IoT Device Defender
AWS IoT Device Defenderは、IoTシステムに接続された機器のセキュリティを保護するためのサービスです。具体的にはAWSが定めるセキュリティポリシー(ベストプラクティス)に沿って、過剰な権限が設定されていないかなどの観点でシステム全体を監査して、ポリシーを順守していない場合には報告を上げることができます。また、認証に失敗した回数などを指標として、異常値を検出した際に警報を出すなどの機能もあります。
AWS IoT Device Management
AWS IoT Device Managementは、IoTシステムに接続された機器を管理するためのサービスです。多くのIoTシステムでは多数の機器を接続する必要があります。AWS IoT Device Managementを活用することで、多数の機器情報を一括で登録し、グループ別に管理することが可能です。また、機器のグループ別にソフトウェアのアップデートを実施することもできます。
AWS IoT FleetWise
AWS IoT FleetWiseは、車両データの収集とクラウドサービスへの転送を行うためのサービスです。具体的には、車両の走行スピード、エンジン回転数といったデータの収集が可能です。AWS IoT FleetWiseは中古車のビジネスでも導入実績があり、車両の資産価値測定などといった用途で活用されています。
分析サービス
AWS IoT SiteWise
AWS IoT SiteWiseは、産業用のIoT機器からデータを収集・分析することができるサービスです。例えば、工場や物流施設に配置されている機器から収集される大量のデータを分析することで、より生産性を上げるための洞察やコスト削減に向けた知見を得ることができます。また、データの分析結果から機器の異常検知を行うこともできますので、業務継続性にも貢献するサービスといえるでしょう。
AWS IoT Events
AWS IoT Eventsは、IoT機器の変化や異常を検知して、特定のアクションにつなげることができるサービスです。例えば、あらかじめ設定した条件に合致するイベントが発生した際に、AWS Lambdaなどのサービスを呼び出し、特定のプログラムを起動するといったことができます。
AWS IoT Analytics
AWS IoT Analyticsは、他のAWSサービスと連携してIoT機器からのデータ収集、変換、保存、可視化を行うサービスです。データの収集はAWS IoT Coreと連携しますし、欠落データの変換はAWS Lambdaを呼び出して行うことができます。また、分析結果をQuickSightに連携することでダッシュボードとして可視化することも可能です。
AWS IoT TwinMaker
AWS IoT TwinMaker は、IoT機器から収集したデータに基づいてデジタルツインを作成できるサービスです。デジタルツインとは、現実世界にある情報を元にデジタル空間上で対象物を再現する技術を意味します。デジタルツインは製造業、建設業など幅広い分野で活用されており、精度の高いプロタイプ作成などに役立っています。AWS IoT TwinMaker を活用することで、独自の仕組みを導入することなくデジタルツインを活用することが可能です。
AWS IoTを導入するメリット
AWS IoTを導入することで、効率的なデータ管理、コスト削減といったさまざまなメリットを享受できます。ここでは、AWS IoTを導入することで期待できるメリットについて解説します。
効率的にデータ管理を行える
IoTシステムにおいては、継続的に大量のデータを収集することになりますので、効率的なデータ管理が欠かせません。また、収集したデータからビジネスに役立つ知見を得るためには適切な手法で分析することも必要です。AWS IoTは、データの効率的な収集、保管、分析を一気通貫で行えるサービス群を備えています。そのため、オンプレミス環境でIoTシステムを構築した場合に比べ、迅速にデータ管理の仕組みを整備できるほか、ハードウェアのスペック不足を心配することなくデータの保管、分析を行うことが可能です。
コスト削減が期待できる
AWSは従量課金制であることから、サービスを利用する頻度やデータ量に応じて金額が変動します。また、クラウドサービスであることからオンプレミス型のシステムと異なり、自前でサーバやIoT用のソフトウェアを準備する必要がありません。さらに、使用しなくなったサービスは停止することで課金も止まりますので、定期的に利用するサービスを見直すことでコスト削減につながるでしょう。
セキュリティ対策を強化できる
AWSは保管データの暗号化、サイバー攻撃に対する防御などによって、高いレベルのセキュリティが担保されています。AWS IoTにおいても、収集されたデータの暗号化を始め、IoT機器とクラウドサービス間の安全な通信などのセキュリティ対策が施されています。また、DDoS攻撃を防ぐAWS Shieldを始めとしたセキュリティリスクに対応するマネジメントサービスを併用できることも大きなメリットです。
スケーラビリティの向上が期待できる
スケーラビリティの向上もAWS IoTを導入する上での大きなメリットです。IoTのシステムをゼロベースで構築する場合、スキルや専門知識が必要であることに加え、IoT機器から収集した膨大データをどのように転送、保管するのかが大きな課題になります。AWSはクラウドサービスのため、扱うデータの量が想定を上回ったとしても比較的容易に拡張することができます。
Amazon IoTの活用事例
Amazon IoTは多様な用途に応じたサービスを備えていることから、活用事例も多岐に渡ります。ここでは、Amazon IoTが活用される分野について、いくつか代表的なものを解説します。
産業用IoT
製造業などの産業分野では、IoTを活用することで業務プロセスの効率化と生産性の向上が期待できます。また、これらの分野では予測品質分析や予知保全分析、アセット状態モニタリングなどに取り組む事例が数多く見られます。予知保全、アセット状態モニタリングは、生産設備や資産の状態を継続的に監視し、故障などが起こる前に未然にメンテナンスを行うなどの取り組みです。
例えば、AWS IoT Coreを中心にIoTシステムを構築し、工場の設備や生産ラインなどの異常をカメラやセンサーから得られたデータにより検知するケースが代表的です。
コンシューマーIoT
BtoCの分野でもAWS IoTの事例があります。ロボット掃除機メーカーであるiRobotは、各家庭のロボット掃除機から収集される膨大なデータを効率的に管理するため、AWS IoT CoreとAWS Lambdaを併用したシステム構成を採用しています。これによってハードウェアの性能や限界に左右されない拡張性のあるIoTシステムを実現し、10人以下という少数の人員でシステムを管理しています。独自のシステムであれば、IoTのスキルを持った専任の要員を確保する必要がありますが、AWS IoTの活用によって運用業務の効率化と人件費の削減につなげているのです。
商用IoT
BGMサービスを手がけるUSENは、Amazon Kinesis Video Streamsを用いて長時間の録画ができる監視サービス「USEN Camera」を提供しています。このサービスの特徴は、監視カメラによる録画から収集したデータの分析までを一気通貫で行うことです。
USENでは、ゼロベースでIoTシステムを開発する予算とノウハウが不足していたことから、AWS IoTを採用することを決定しました。その結果、わずか1年足らずでサービスの開発を終え、テスト販売に至っています。クラウドサービスの活用によって、ビジネスのスピードが加速した一例といえるでしょう。
コネクテッドモビリティ
コネクテッドモビリティとは、センサーなどを使って車両の状態や周辺環境の情報を収集し、分析することで自発的に問題に対処する車両全般を指します。コネクテッドモビリティには、IoTの技術が使われており、AWS IoTのサービスではAWS IoT FleetWiseが該当します。
イギリスを本拠地とする電気トラックメーカーのVolta Trucksは、車両からリアルタイムで収集したデータを生成AIに連携し、車両の稼働率向上、ドライバーの安全管理といった目的でAWS IoT FleetWiseを活用しています。コネクテッドモビリティは自動運転の実現にもつながる技術であり、今後も大きな広がりを見せていくことでしょう。
AWS IoTで何ができるかを知り、効率的なIoTシステムの構築を
AWS IoTは、AWSが提供するマネジメントサービスの一部であることから、独自のシステムを構築することなく、IoTに関する多様なニーズに対応することができます。例えば、AWS IoT CoreのようにIoT機器の管理、データの収集、分析といったIoTに欠かせないサービスから、AWS IoT FleetWiseのようにコネクテッドカーに特化したサービスもあります。
AWS IoTを最大限に活用するためには、それぞれのサービスで何ができるかを正しく理解し、目的に合ったサービスを選択することが重要です。しかし、場合によってはIoTに加えてクラウドサービスに関するノウハウが不足しており、検討が進めにくいケースもあるでしょう。そこで推奨したいのが、サーバーワークスが提供する「AWS構築・移行支援」のサービスです。このサービスでは、AWSのベストプラクティスに基づいて効率的かつ低コストにクラウドサービス移行を実現するための支援を行います。支援にあたってはノウハウを持ったAWS認定資格者がワンストップで対応することから、クラウドサービスの知見を持った人材が不足している場合でも安心して任せることが可能です。IoTシステムをクラウドサービス上で迅速かつ低コストで構築したい場合には、ぜひ検討されてはいかがでしょうか。