SAP ERP移行の事例
"AWS化でSAP ERPのインフラ運用のコストは、2019年に比べ2020年は310万円削減されています。これは、当初の見込みよりも大きなものとなっています"
- 社内システム事例
2021.07.01 掲載
基幹系システムSAP ERPのAWS移行をサーバーワークスに依頼した経緯、評価、効果について、株式会社大伸社 管理部 荒賀氏、長峰氏、北國氏、ベニックソリューション株式会社 ソリューション本部 SAPソリューションサービス部 石原氏に詳しく伺いました。
株式会社大伸社様
マーケティングとコミュニケーションデザインを事業として、創業68年の実績。BtoB広告賞に連続受賞するなどクリエイティブ実績を多数持っております。コンテンツマーケティング、MA運用支援などデジタルマーケティング支援領域にも対応、リアル展示会のブースデザイン、ショールームなど空間設計も多数実績がございます。
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
目次
導入の概要
印刷会社として創業し、現在は各種マーケティング支援サービスなどを幅広く提供する大伸社グループでは、ホスティングで運用してきた、基幹系システムのSAP ERPをAWSの環境に移行しました。オンプレミス、ホスティング環境でSAP ERPを運用していれば、5年ごとに訪れるハードウェア更改を避けることはできません。そのための作業は、同社にとって極めて大きな負担でした。さらにSAP ERPのサポートが終了する「SAP ERPの2025年問題(現在は2027年までサポートは延長)」もあり、将来的なSAP S/4HANAへの移行なども早急に検討する必要もありました。
大伸社ではまず、SAP ERPのインフラ基盤をAWS化することで、5年ごとのハードウェア更改の作業から解放し、その上でインフラ運用のコストの削減を実現します。AWS化で運用負荷は軽減され、削減されたコストを新たなIT投資に振り分けることで、今後のSAP ERPの2025年問題への対処体制も整えることができたのです。
導入の経緯
SAP ERPをAWSに移行して5年ごとのハードウェア更改作業から解放
1952年に印刷会社として創業した大伸社は、2014年に5つの事業会社を設立しホールディングス体制に移行しました。現在は6社の事業会社となり、従来の印刷事業に加えイベントや自社開発ソフトウェアの提供、デジタルマーケティングのサービスなど、新たな領域にビジネスを拡大しています。「創業以来、顧客の期待に応え、それを超えるようにしています」と言うのは、株式会社大伸社 管理部の荒賀氏です。既存の印刷事業だけに拘らず、顧客ニーズに柔軟に応えるのは同社の社風であり、強みにもなっています。
また大伸社では、社内で競争を促すことでビジネスを伸ばすような取り組みもしています。「部門間で競争し、部門が得た利益はなるべくそれぞれに分配できるようにしています。そのために、部門別の利益が出せるよう基幹系システムのSAP ERPにも手を入れ、スピード感のある経営を目指してきました」と荒賀氏は言います。
使い込んできた大伸社のSAP ERPの環境は、当初は社内にサーバーを設置し利用していました。その後はSAP ERPの保守サポートを依頼しているベニックソリューション社のホスティング環境に移行し運用していました。オンプレミスのサーバーからパートナーのホスティング環境に移行しても、5年ごとに訪れるハードウェア更改は避けられません。「ハードウェアの更改作業は一大イベントで、我々にとっては費用と作業の両方で大きな負担でした」と荒賀氏は振り返ります。
次回のハードウェア更改のタイミングを控え、移行先環境をどうすべきかを検討することとなりました。ホスティングからパブリッククラウドに移行すれば、5年ごとの更改が必要なくなります。その上でパブリッククラウドであれば、コスト削減も期待できるのではと考えました。
さらに大伸社では、SAP ERPの保守サポート期限が終了する「SAP ERPの2025年問題(現在は2027年までサポートは延長)」にも対処する必要がありました。そこで「SAPとも会話したところ、インフラをAWSに移行しておけば、その後のSAP S/4HANAへの更新などもかなり楽になることがわかりました。そのため、今回のSAP ERPのインフラをAWSに移行することは間違いではなかった」と荒賀氏は言います。
大伸社ではSAP ERPをAWS化するのと同時に、SAP S/4HANAへの更新は実施しませんでした。現状SAP ERPを直接利用するユーザーは管理部門の20名ほどで、グループ各社のユーザーの多くは、別途ツールを介してSAP ERPを利用しています。AWSへの移行とSAP S/4HANAへの更新を一気に実施すると、利用しているツールとの連携部分も作り直すことになり、その移行作業負担がかなり大きくなってしまうと判断しました。そのため、まずはインフラのAWS化でハードウェア更改からの解放とコスト削減を実施し、浮いたコストを新たなITインフラ投資に振り分け、後々のSAP ERPの2025年問題にも段階的に備えることにしたのです。
サーバーワークスを選んだ理由
エンタープライズ領域での豊富な実績を評価し、AWSインフラ構築と運用のパートナーにはサーバーワークスを選択
大伸社のSAP ERPの保守サポートを担っているベニックソリューションは、サーバーワークスの支援の元、SAP ERP環境のAWS化のためのテンプレート作成。そのため、サーバーワークスのAWSに関する高い能力は把握しており、「エンタープライズ領域でのAWSの実績が豊富であり、今回大伸社殿へのSAP ERPというミッションクリティカルな基幹系システムの移行について共同提案をすることとしました。」と言うのは、ベニックソリューションの石原氏です。
その上でAWSの利用費用を、サーバーワークスならクレジット払いを請求書払いにできるのも依頼するメリットでした。さらに「運用自動化サービスのCloud Automatorがあったこともポイントでした。Cloud Automatorを活用すれば、クラウド技術者以外でもオペレーションが可能となるためAWSの運用管理負荷が大きく削減できます」と石原氏は言います。
結果的に、安全なAWSインフラ基盤の整備とその運用ツールの提供部分はサーバーワークスが、AWSインフラ基盤へのSAP ERPの移行とその運用部分はベニックソリューションが担う体制で、大伸社のSAP ERPのAWS化が実施されたのです。
大伸社では今回の移行プロジェクトは以下のようなスケジュールで実施しました。
- 2018年~ AWS化の検討を開始
- 2019年5月 AWSへの移行提案の採用
- 2019年6月~7月 サーバーワークスのサポートのもとAWS環境の基盤環境を構築
- 2019年8月~10月 SAP ERP開発機の移行・検証作業
- 2019年10月~11月 SAP ERP本番機の移行リハーサル作業
- 2019年10月~12月 周辺システムの移行
- 2019年12月末 SAP ERP本番機の移行作業
- 2020年1月~ AWS上でのSAP ERPの利用
今回AWSの基盤を構築しSAP ERPを移行するに際し、大きなトラブルは発生しませんでした。一部、AWS上でのバックアップなど、新たな設定などの作業のほか、SAP ERPの周辺システムの移行とそれらを連携させるための作業が必要となっています。また、今回はAWS Direct Connectを用い、プライベート接続のネットワーク環境を構築して安全性を高めており、販売管理で利用しているSaaSとの連携は社内イントラネットを経由する必要があったため、別途調整する必要があり多少手間のかかる部分もありました。
また今回ライセンスの都合もあり、OS環境を一旦Amazon EC2のオンデマンドインスタンスで動かし、それをVM Import機能で専用ハードウェア構成のDedicated Hostsに移行する必要がありました。この手順が特殊なこともあり、若干の苦労もありました。しかし「この部分については、サーバーワークのサポートがあったことで、トラブルなく迅速に実施できました」と石原氏。今回全体としてほとんどつまずくことなく移行できたのは、AWSに関するサーバーワークスからの柔軟なサポートがあったからこそだと言います。
導入後の効果
AWS化でインフラ運用コストが想定以上に削減でき、Cloud Automatorの活用で自社での運用も可能に
AWSへの移行後「SAP ERPのインフラ運用のコストは、2019年に比べ2020年は310万円削減されています。これは、当初の見込みよりも大きなものとなっています」と荒賀氏。その上で3時間かかっていた月次データ処理が45分に短縮されるなど、インフラ刷新でスピード面でも改善点が見られています。
さらにCloud Automatorが運用の効率化にも貢献しています。バックアップのスケジューリングや開発環境の立ち上げなども、Cloud Automatorの画面からボタン1つで実施でき、当初大伸社サイドでAWSの運用面の不安として感じていたようなことが解消されています。「Cloud Automatorがあれば、AWS運用経験がなかった自分たちでも、AWSインフラの運用が可能となっています」とも荒賀氏は言います。
AWS化したことで、ベニックソリューションのSAP ERPのリモート保守作業も効率化されています。AWSの環境にはリモートからAmazon WorkSpacesで安全にアクセスできるため、リモートアクセス用の特別な設備も必要ありません。今回新たに採用したDatadogを用いた監視環境もAWSで問題なく実現されており、「保守管理の立場からも、SAP ERPのAWS化のメリットは大きなものがありました」と石原氏は言います。
AWS化したSAP ERPについては、安定した運用が続いています。今後の大伸社におけるSAP ERPの2025年問題への対処については、AWS上でのSAP S/4HANAへの更新などを候補に、検討が開始されています。また、大伸社には現在もサーバールームがあり、オンプレミスのシステムがいくつか運用されています。今回のSAP ERPのAWS化の成功を踏まえ、今後はそれらのAWS化も検討していくことになります。
「バーチャル展示会プラットフォームの『meet × meet(ミーツ)』は、AWSで構築されています。グループ各社でもAWSを利用しており、この傾向はさらに加速するでしょう。今後は大伸社の請負ビジネスでも、クラウド活用を含む提案を顧客にすることとなります。その際には、パートナーとしてのサーバーワークスとWin-Winの関係となるような共同提案ができるのではと考えています」と荒賀氏。そのためのより効率的で効果的なAWS活用方法の提案を、サーバーワークスには期待しているとコメントしました。
※本事例はベニックソリューション株式会社との共同提案となります。
https://www.benic.co.jp/
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