SAP ERP移行の事例
"京阪グループでは、SAP ERP環境のAWSへの移行が終了しました。今後はクラウドの良さをさらに引き出すために、クラウドネイティブなサービスや機能を積極的に利用していきたいと考えています。"
- 社内システム事例
2020.01.14 掲載
株式会社京阪ビジネスマネジメント IT事業部 ITソリューショングループ 竹田 和喜氏に、AWS導入の経緯を詳しくお聞きしました。
株式会社京阪ビジネスマネジメント様
明治39年(1906)年に会社を創立した京阪電鉄。現在は京阪ホールディングスの傘下で大阪、京都、滋賀に路線を展開する鉄道事業、鉄道沿線を中心とした不動産業、流通業、レジャー・サービス業など幅広いビジネスを行っています。
株式会社京阪ビジネスマネジメントは管理業務を担う子会社として2004年に設立されました。
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
目次
導入の概要
大阪と京都を結ぶ京阪電鉄をグループに持つ京阪ホールディングスでは、SAP ERPのサーバー環境のリプレースにあたり、災害にも耐えうるインフラを求めパブリッククラウドを選択しました。
検討のきっかけ
多様なビジネスを展開する京阪グループでは、グループ全体の業務効率化のため、2018年4月にSAP ERPのグループ展開を完了。そして2018年5月からは、次期サーバーリプレースのタイミングに向け、柔軟性があり信頼性の高い新たなインフラ環境の検討を開始しました。
当初はオンプレミスのままサーバー更新、またはプライベートクラウドの利用を検討していました。パブリッククラウドはデータを持ち出して大丈夫なのか、さらには本当にコストが低くなるかなどの不安もあり、なかなか踏ん切りがつきませんでした。しかし、SAP ERPの新たなインフラに悩んでいる中、2018年6月に大阪府北部地震が発生し、さらに2018年9月には、台風21号により関西地域にも大きな被害が出ました。これらの災害を受け、改めてBCP(事業継続計画)が重要な要件であると考えるようになりました。
京阪グループのITシステムを運用について、さらなるBCP強化のための環境整備コストが課題でした。パブリッククラウドならば、データセンター施設の冗長性や可用性は全てサービス事業者に任せられます。またコストも検証し、パブリッククラウドに優位性があると確認できました。こうして、次期SAP ERPのインフラにはパブリッククラウドが最適との判断をしたのです。
その上でどのパブリッククラウドサービスを選ぶかを決める際に重要となったのが、サポート体制でした。クラウドの環境構築からSAP ERPの移行を含むプロジェクト全体を、クラウドに精通した信頼できるクラウドインテグレーターにサポートしてもらえることがAWSを採用する決め手となりました。
サーバーワークスを選んだ理由
AWSを検討し始めた際、京阪グループではまずエンタープライズ企業でのAWS環境構築、運用実績が多いサーバーワークスに相談しました。すると、SAP ERPの移行ならばと経験豊富な関連会社BeeXを紹介されました。すぐにBeeXのトップの方が来社し、我々の疑問にAWSではこうすれば解決できますと提案してくれました。
AWSに詳しい会社やSAP ERPを得意とする会社はそれぞれありますが、双方に詳しい会社はほとんどありません。AWSの最上位パートナー認定を得ているサーバーワークスとSAP ERPのAWS移行に特化したサービスを展開するBeeXという協業体制があれば、安心してSAP ERPのAWS化に取り組める、そう感じました。
AWSにしてよかったこと、そして導入後の効果
京阪グループ43社で利用するSAP ERP環境をAWSへ移行するプロジェクトは、BeeXを中心としたサポート体制でスタートしました。まずはAWS上にWindows Server 2016のサーバー環境を構築、そこでSAP ERPのアプリケーションを稼動させ、データをオンプレミスから移行します。SAP ERPの周辺システムについては、移行ツールであるCloudEndureを利用しました。SAP ERP以外にもオフコン上で独自開発した資材管理システムがあり、これはWindowsベースのアプリケーションを新規に開発しAWSに載せます。
SAP ERPのAWSへの移行作業は、新しいデータセンターの環境を1から構築するようなものでした。とはいえそのための全ての作業がPCからできることは、これまでの経験とは大きな違いでした。実際の移行作業ではBeeXと一緒にAWSの環境を設計し、それをすぐにAWS上で構築、検証し最適かどうかを確認しました。AWSならばすぐに環境を作って試すことができ、作った環境が良くなければそれを捨て次を検討するのも容易です。こういったことを繰り返すクラウド流のアプローチは、かなり新鮮なものでした。
AWS化に伴い既存環境の精査ができたのも、もう1つのメリットでした。SAP ERP周辺システムの要件や用途を改めて確認することとなり、コスト観点からも見直して最適化できたのです。またクラウドの柔軟性のメリットもありました。本番への切り替え時だけサーバースペックを倍にし、移行時間を大幅に短縮できました。こういった工夫は、クラウドならではです。
もちろん苦労もありました。たとえばセキュリティ確保のためにSAP ERPのサーバー上にファイヤーウォールを構築していましたが、そこで実現していたことをAWSのセキュリティグループの機能で実現する必要がありました。ファイヤーウォールの機能が、そのままセキュリティグループに置き換えられるわけではないからです。
ファイヤーウォールを経由したSAP ERP環境へのアクセスも置き換えました。これについては、セキュアな仮想デスクトップであるAmazon WorkSpacesを採用しています。Amazon WorkSpacesの利用は安全なアクセス環境のシンプル化、WindowsのCALがなくなることによるコストの最適化も実現しています。これらの対応ではサーバーワークスも貢献しました。30件くらいはサポートチケットを切り、サーバーワークスに迅速に対応してもらいました。目の前の問題だけでなく、将来的な運用を見据えた総合的な視点でアドバイスを受けることができました。
今後の展開について
AWSへの移行は、現状のSAP ERPの運用の見直しにもなりました。見直して効率化するために必要な機能はAWSに揃っています。それらとサーバーワークスのCloud Automatorを組み合わせることで、バックアップやインスタンスの停止など運用の一部の自動化も実現されています。
またAWS化に関わったことで、社員の意識にも変化がありました。鉄道という社会インフラ事業を行っていることもあり、京阪には比較的保守的な考えの人が多いです。しかしAWSのメリットの一つである俊敏性の恩恵を最大限受けるためには、そのような人たちのスピード感を変える必要がありました。そのためスピードを上げすばやく意思決定することが、プロジェクトの共通認識となったのです。プロジェクトを離れてもその感覚を持ち続けられるよう、AWSをより積極的に活用する体制の構築を検討していきます。
京阪グループでは、SAP ERP環境のAWSへの移行が終了しました。今後はクラウドの良さをさらに引き出すために、クラウドネイティブなサービスや機能を積極的に利用していきたいと考えています。個人的な思いもありますがこれからはAWSファースト、さらにはサーバーレス・ファーストでやっていきたいです。そうすることで、AWSへのリフトからクラウドネイティブへシフトし、企業のデジタル変革にも貢献できるはずです。
その最初の取り組みとして、京阪電鉄の60の駅において、深層学習技術を使用したテキスト読み上げ機能「Amazon Polly」を使ったアナウンスの仕組みを構築しています。これを利用することで、災害時にも原稿データを用意するだけで駅構内に多言語対応のアナウンスを自動配信できます。この仕組みの構築では、サーバーワークスのサポートを受けながらAmazon PollyだけでなくAWS Lambdaなども用いたサーバーレスの仕組みを採用し、迅速かつ安価な環境構築が実現しています。今後もこういったことに積極的に取り組むためにも、サーバーワークスには積極的なAWS活用提案をして欲しいですね。
AWS導入・活用に関するご相談はサーバーワークスへ
関連する導入事例
-
AWS環境の統制上のリスクに備え、AWS Organizationsを活用して統合的なアカウント管理基盤を構築。ガバナンス強化とコストの最適化を実現
他の鉄道会社さんとの集まりで当社の取り組みを発表したところ、問い合わせを受ける機会が増え、クラウド活用やアカウント管理が鉄道業界共通の課題であることを改めて認識しました
2023.12.12 掲載
-
EOSを機にオフィス内の物理サーバーを廃止。高いパフォーマンスと事業継続性を獲得し、懸案事項だった社屋移転もスムーズに実施
クラウド型コンタクトセンターサービス「Amazon Connect」の導入に続く第二弾として、EOS(End Of Support)を迎える3台のファイルサーバーをAWSに移行。パフォーマンスの向上と事業継続性の強化を実現し、物理サーバーの制約が無くなったことで、社屋移転もスムーズに実施されました。
2023.12.05 掲載
-
Amazon QuickSightで新たなBI環境を構築し、データドリブン経営を強化ダッシュボード上で可視化されたデータによるマネジメント層の高度な意思決定が実現
「データドリブン経営を強化していく上で、既存のBIツールにはないAmazon QuickSightの使い勝手の良さは魅力的でした。利用時間に応じた従量課金に対応していることも評価ポイントになりました」
2023.11.28 掲載
-
PCI DSSに準拠したBNPL(※)決済サービスのシステムをAWS環境で構築、サーバーワークスの支援を受けて、スピード感を持ったプロジェクト推進を実現
PCI DSSのノウハウを有するサーバーワークスのAWS構築・移行支援サービスを採用して、B to C向けスマホ活用型後払い決済サービスのシステムをAWS環境で新規構築。システムの設計から構築、実装までを含めたトータルでの支援を受けたことで、準拠のための監査もスムーズにクリアしています。
2023.10.11 掲載
-
気象データ解析用システムの基盤としてAWSを初導入、柔軟な計算パワーと大容量ストレージを獲得し、構築作業の一部を自社で担うことで約1か月での環境構築を実現
サーバーワークスのAWS構築・移行支援サービスを採用して、自社初のAWS環境を構築し、顧客ニーズに応えるために必要となる柔軟な計算パワーと大容量ストレージを獲得。またセルフオーダーオプションを採用して構築作業の一部を自社で担うことで、約1か月でのカットオーバーを実現しました。本番環境の稼働開始後にはAWS運用代行・監視サービスも利用して、AWS環境の安心・安全な運用を担保しています。
2023.05.24 掲載
-
研究開発用システムの基盤としてAWSを初採用、ITパートナーとしてサーバーワークスを選定し、2つの実験用システムのPoCを実施、実験数は3分の1にまで激減
サーバーワークスのアドバイザリー契約とAWS構築・移行支援サービスを採用して、初めて導入するAWSを基盤に2つの実験用システムのPoCを実施。コンテナ向けサーバーレスコンピューティングサービスのAWS Fargateなどを活用してスピード感のあるPoCを実現、実験数は実に3分の1にまで激減しています。
2023.05.10 掲載