AWSにおけるゼロトラストとは?導入のメリットや注意点、主なサービス

クラウドサービス利用の加速やテレワークの常態化によって、社内ネットワークは安全・信頼できるという環境が崩れ、一度侵入されると被害が拡大するという新たなリスクも顕在化しています。そのため、従来のファイアウォール頼みの境界型セキュリティでは対応できない課題が増えているのです。
こうした状況下で注目されているのが全てのアクセス・通信を信頼せずにセキュリティを講じる「ゼロトラスト」という考え方です。本記事では、アマゾン ウェブ サービス(AWS)上でアクセス制御、暗号化といった機能を使用してゼロトラストセキュリティを実現する方法や、導入時のポイントについて解説します。
この記事でわかること
- AWSを利用したゼロトラストセキュリティの基本概念や導入による効果・メリット
- AWSのクラウド環境におけるリソースやアーキテクチャ、ワークロードを安全に保護するための具体的なアプローチや実装から運用までのベストプラクティス
※当記事は2025年3月に書かれたものであり、以後に展開された最新情報が含まれていない可能性がございます。
AWSにおけるゼロトラストセキュリティの基本情報
AWSはゼロトラストセキュリティが注目される大きな要因である、クラウドサービスの代表的な存在です。そのため「データへのアクセスはネットワークの場所だけに基づき実行すべきではない」という考えを中核としたセキュリティモデルの構築を目指すためのアーキテクチャ構築の支援も展開しています。まずはゼロトラストの本質を理解したうえで、AWSの具体的な機能を確認していきましょう。
そもそもゼロトラストセキュリティとは
ゼロトラストセキュリティは、「何も信頼しない」という基本方針に基づいて、社内外のアクセス制御を実施するセキュリティの概念です。対象となるアクセスは以下の通りです。
*ネットワーク
*アプリケーション
*VPC
*エンドポイント
基本的に毎アクセス時に認証やアクセス許可が必要となるため、ログの生成や継続的なモニタリングや暗号化された通信など、セキュリティの各コンポーネントを厳格に実装しなければなりません。
従来のセキュリティモデルとの違い
従来のセキュリティは主にファイアウォールや境界防御に依存し、社内ネットワークをある程度信頼していました。しかし、AWSのクラウドサービス環境では、社内と外部の境界が曖昧になり、インターネット経由の攻撃や不正アクセスが増加したため、ゼロトラストは内部からのアクセスに対しても厳格な認証・アクセス制御を適用します。これにより、システム全体の安全性が向上し、各種ログやメトリクスを用いたリアルタイムの検出と対応が可能となります。
従来型セキュリティ | ゼロトラスト | |
---|---|---|
信頼の前提 | 社内ネットワークは安全と見なす | 社内外すべてのアクセスを検証 |
防御の考え方 | 境界(ファイアウォール)で遮断 | 各リソース単位でアクセス制御 |
攻撃検知 | 境界侵入後は可視性が低下 | ログとモニタリングで継続的に検知 |
ゼロトラストセキュリティが求められる背景
現代のビジネスシーンにおけるIT環境は大きく変化しており、それに伴い新たな脅威なども登場し、セキュリティの在り方も変わり続けています。ゼロトラストが求められるようになった背景は以下の通りです。
*クラウドシフトの加速: オンプレミス環境からクラウドサービス(IaaS, SaaS)への移行が進み、従来の境界防御モデルでは対応が困難に
*テレワーク・BYODの拡大: 社外からのアクセスや個人デバイス利用が一般化し、内部からのリスクも無視できなくなった
*複雑なシステム連携: APIやマイクロサービスを多用する現代のアーキテクチャでは、通信経路や認証経路が増加
*求められる自動化と可視化: ポリシーの一元管理、異常検知、ログによる追跡可能性がセキュリティ運用に必須
AWSにおいてゼロトラストセキュリティを導入するメリット
ゼロトラストはすべてのサービスを制御することが原則となっているため、さまざまなサービスを一元管理できるAWSは親和性が高いといえるでしょう。また、AWSでゼロトラストセキュリティを導入することは、情報漏えいのリスク軽減のほか、運用管理のコスト軽減、利用者の利便性向上、DXの推進といったセキュリティ対策以外のメリットの実現にもつながります。その具体例を確認してみましょう。
情報漏洩のリスク軽減
ゼロトラストは「最小権限の原則」を徹底することで、不要なアクセス許可を排除し、ユーザーやインスタンスごとの権限管理を強化します。これにより、内部・外部からの不正アクセスや情報漏えい、特権昇格といった攻撃のリスクが大幅に軽減され、各種ログやアラートによる迅速な対応が可能になります。
運用管理のコスト削減
自動化されたアクセス制御、リアルタイムなモニタリング、APIを活用したセキュリティ管理により、管理者の負担が軽減されます。AWSの各種ツールやセキュリティソリューションを統合することで、運用管理の効率化が進み、コスト削減とともにシステム全体の安定性が向上します。
利用者の利便性向上
ゼロトラストセキュリティの実装は、アクセス認証や暗号化通信といった仕組みを通じて、利用者が安心してクラウドリソースへアクセスできる環境を提供します。これにより、システム利用者は安心してどこからでもアクセス出来ます。
DXの推進
AWSのゼロトラストを採用することで、オンプレミス環境とクラウドサービス間の移行や、複雑なインフラストラクチャの統合がスムーズに進むようになります。これにより、クラウドアーキテクチャやIaaS、さらにはALBやEndpointなどの各種コンポーネントの活用が促進されるでしょう。その結果、システムを新しい環境に移行するモダナイゼーションなどを図りやすくなり、テレワークやリモートワークが導入しやすくなるなど、企業全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に大きく寄与します。
AWSでゼロトラストセキュリティを設計する前に理解すべきこと
ゼロトラストセキュリティの設計を成功させるためには、「何を守り、どんな攻撃に備えるべきか」を明確にする必要があります。AWS環境において、これを体系的に考えるために「STRIDE(ストライド)」と呼ばれる脅威モデリング手法が有効です。
STRIDEは、マイクロソフトが提唱したセキュリティフレームワークのことを指し、潜在的な脅威を6つのカテゴリに分類し、それぞれに対する具体的な対策を検討することを目的としています。ゼロトラストの設計では、これらの脅威に対してアクセス制御・暗号化・ログ管理などの技術をどのように適用するかが重要です。
*脅威モデルSTRIDE
STRIDEフレームワークは6つの要素に脅威を分類してモデル化します。現状のリソースやワークロードに潜む脅威を特定・評価し、適切な対策を検討しましょう。
1:Spoofing:ユーザーIDのなりすまし
不正なユーザーが正当なIDを偽装することで、アプリケーションやサーバー、VPC内のインスタンスに不正アクセスするリスクが存在します。その結果、IAMユーザーの認証情報が流出し、Amazon S3バケットにアクセスされる可能性が高まってしまうのです。AWSにおいては、IAM + MFA(多要素認証)、Cognito、AWS Identity Center による認証強化によって対応できます。
2:Tampering:データの改ざん
攻撃者がログやアプリケーションデータを改ざんすることで、システム全体の信頼性が損なわれます。暗号化やデジタル署名、ログの継続的な監視が有効な対策となります。
3:Repudiation:ソースの否認
行動履歴やアクセスログの改ざんにより、誰がどのリソースにアクセスしたのかが否認される恐れがあります。ここでは、監査ログの生成と保管、厳格なガバナンスの適用が求められます。
4:Information Disclosure:情報漏えい
機密情報が暗号化されずに通信される場合、内部情報やビジネスデータが流出する可能性があります。エンドポイント間の通信を暗号化し、アクセス制御を厳格にする対策が必要です。
5:Denial of Service:サービスの拒否
大量の不正アクセスやリソースの過剰な利用により、正常なサービス提供が妨げられる攻撃への対応策として、AWS Shieldやモニタリングツールを活用して継続的な評価と自動化対応を実施します。
6:Elevation of Privilege:特権の昇格
攻撃者が低い権限からシステムの特権を不正に獲得するリスクに対して、最小権限の原則を徹底し、各種アクセス許可やポリシーの適用を厳格に管理することが不可欠です。
AWSのゼロトラストセキュリティ設計に利用できる主なサービス
ゼロトラストをAWSで実現するには、①ユーザー/サービスの身元を厳格に確認し、②脅威別にレイヤーを分けて防御し、③すべての操作を暗号化とログで可視化する仕組み、が欠かせません。AWS には以上の 3 要素を実現するためのサービスが多数用意されています。以下はゼロトラスト設計で中心的に利用されるサービスです。
①IAM / IAM Identity Center / Amazon Cognito:ゼロトラストの"入り口"を固める
IAM
ポリシーベースの認可で、サービス間 API も含めた最小権限を定義します。
IAM Identity Center(旧 AWS SSO)
組織全体の統合 ID プロバイダとして、多アカウント構成でも一貫した認証を提供します。
Amazon Cognito
アプリ利用者 (B2C/B2B) を対象に、外部 IdP 連携や MFA を容易に付与。→ 脅威への対応:パスワードリスト攻撃や権限過多を防ぎ、ゼロトラストの起点「すべてのリクエスト前に ID を検証」を実現します。
②AWS WAF:アプリケーション層で"継続検証"
SQL インジェクション、XSS、Bot/スクレイピングなどのご指摘を脅威に対応します。
インバウンドごとに署名ベース検査を行い、「常に検証し続ける」概念を L7 で担保します。また、ALB・API Gateway と連携し、セキュリティの高いマイクロサービス通信を維持します。
②AWS Shield:DDoS から可用性を守る"防波堤"
UDP Flood、SYN Flood、DNS Query Floodなどの脅威に対応します。「ネットワークを信頼しない」前提で、常時トラフィック分析し異常を自律遮断。Shield Advanced なら自動 WAF ルール調整と回復支援も行います。
③2AWS KMS:"暗号鍵"を集中管理し可視化
盗難ディスクからのデータ解析、転送経路の盗聴などの問題に対応します。保存データも転送データも暗号化し、鍵利用は IAM+CloudTrail で完全監査。これにより「暗号化によるデータ最小権限」を具体化します。
AWSゼロトラストで実現する安全なクラウド戦略とシステム最適化
本記事では、AWSでゼロトラストを実装する際に押さえておきたい基礎知識として、従来の境界型セキュリティとの違いから脅威モデリング(STRIDE)が果たす役割までを整理し、WAF・Shield・KMS などのマネージドサービスを組み合わせた設計ポイントを紹介しました。ゼロトラストは、テレワークやマルチクラウドが前提となった今の企業 IT において、"いかにして信頼を細かく検証し続けるか" を体系的に示す設計思想です。
アクセスの可視化、最小権限の徹底、自動化による運用負荷の低減を通じて、企業のIT基盤を"しなやかで強靭"なものに変えることができます。
サーバーワークスは、AWS への移行支援からゼロトラスト設計・構築、ガバナンス強化、運用最適化までワンストップで伴走します。社内に専門チームがなくても、私たちが代わりにポリシー策定やサービス選定、監視体制の整備を引き受けるため、安心してクラウド活用を推進することが可能です。
「まずは自社の課題を整理したい」「設計の勘所をプロに相談したい」と感じたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。