生成AIの開発未経験のメンバーがサーバーワークスの伴走支援によってGenUを活用したRAGを3カ月で開発

家電から宇宙まで三菱電機グループの幅広い事業分野の製品やシステムの開発・設計を手がける三菱電機エンジニアリング株式会社(以下、MEE)。生成AIのナレッジ獲得を目指す同社は、サーバーワークスの技術支援を受けてアマゾン ウェブ サービス(AWS)が提供する生成AIのユースケース集「Generative AI Use Cases JP(GenU)」を活用した家電統合アプリのRAGシステムを内製で開発しました。AWSおよび生成AIの開発は未経験からのスタートながら、PoCを通じて3カ月という短期間で生成AIの基本的なノウハウを習得。現在は内製開発を継続しながら、RAGを活用した検索精度のさらなる向上に取り組んでいます。
事例のポイント
Before
お客様の課題
- ヘルプデスク業務を支援するマニュアル検索の効率化、精度向上
- 将来に向けたクラウド、生成AIのナレッジ獲得
- 社内における生成AI活用の拡大、人材育成
After
課題解決の成果
- AWS初心者のメンバーでRAGシステムを3カ月で開発
- RAGを活用したヘルプデスク支援、回答精度の向上
- AWSの生成AI、RAGに関するナレッジの獲得
- AIを活用した開発の内製化
導入サービス
Index
生成AIでヘルプデスク業務を支援する RAGシステムの内製開発にチャレンジ
三菱電機グループのエンジニアリング企業として5,000名以上のエンジニアを擁し、市場のニーズに応じた製品やサービスを提供するMEE。同社の京都事業所は空調・FA事業を主力とし、制御技術部 IoT技術課のIoT検証グループでは 三菱電機製の給湯機「三菱 エコキュート」やルームエアコンなどさまざまな家電や住宅設備をスマ-トフォンから操作・状態を確認できる三菱電機製家電統合アプリ「MyMU(マイエムユー)」の品質管理と問い合わせ対応も担当しています。
「IoT検証グループには、一般のお客様からの問い合わせに対応する一次窓口のヘルプデスクでは回答が難しい内容がエスカレーションとして上がってきます。しかし、膨大なマニュアルを人手で検索するのに時間を要し、業務負荷の増大につながっていました」と話すのはIoT検証グループ 専任技師の小森琢也氏です。

小森 琢也 氏
この課題の解決に向けて、IoT検証グループが着目したのが生成AIの活用です。同社では業務DXの一環として全社でクラウド活用を推進しており、1つの事例としてAWSの生成AIサービスであるAmazon Bedrockを活用して、キーワードをもとにしたマニュアル検索で回答を自動生成するRAGシステムの開発を検討しました。
しかし、グループのメンバーはAWSや生成AIを使った開発は未経験だったことから、まず2024年に立ち上がった三菱電機グループのAWSユーザー会「Mitsubishi Electric AWS User Group(通称:MAWS-UG)」に参加し、自発的な活動として取り組むことにしました。
IoT検証グループ 主査の片山真史氏は「こうして業務DXを加速するためのAWSや生成AIのナレッジ獲得を目的に、MyMUのマニュアル検索、またもう1つの課題であったHEMS(家庭用エネルギー管理システム)の技術相談管理データベース検索の2つのチームに分かれて、RAGシステム開発の活動をスタートしました」と振り返ります。

片山 真史 氏
サーバーワークスの伴走支援によって GenUを活用した3カ月間のPoCを実施
MyMUのRAGシステム開発では、すでに三菱電機グループとの取引実績があり、AWS専業ベンダーとして高度な知見を備えたサーバーワークスに支援を要請しました。
「PoCは自分たちで手を動かしながら進めたいと考えていたなかで、サーバーワークスからGenUを紹介いただいたことから、GenUを活用して短期間でPoC環境を構築し、サーバーワークスの伴走支援で進めていくことにしました」(小森氏)
RAGシステムのPoCは、2024年10月から12月の3カ月間で実施。RAGの手法は、Amazon KendraとAmazon Bedrock Knowledge Basesを比較したうえでAmazon Bedrock Knowledge Basesを採用し、データベースはベクトル検索が可能なAmazon Auroraとしました。また、回答のソースとなるMyMUのマニュアルはPDF形式でAmazon S3に格納しています。PoC環境の構築を担当したIoT検証グループの吉田莉菜氏は次のように話します。
「アーキテクチャはGenUで公開されているRAGチャットのユースケースを参考にしながら構築し、その後、コスト、速度、精度の3つの観点で評価しました。私は入社1年目でAWSや生成AIの知識はゼロの状態でしたが、不具合が発生したときは先輩に質問したり、生成AIにエラーコードを入力して原因を確かめたりしながら、何とか自力で構築することができました」
回答の速度は実用に耐えられる目安として10秒をクリア。精度に関しては現在も評価を継続しています。

「速度はユーザーから不満が出ないレベルは維持できていると考えています。精度は80~85%を目標とし、誤った回答を出力するハルシネーションが発生しないように評価を重ねています」(片山氏)
サーバーワークスの伴走支援については、AWSや生成AIのナレッジの蓄積につながっている点を評価しているといいます。
「PoCでは自分たちでAWSを使ってみて、どうしてもわからないときにアドバイスを求める進め方をお願いしましたが、粘り強く見守っていただきました。開発の過程では、GenUの枠を超えて、より使いやすくメンテナンス性に優れたアーキテクチャを構築したいという難しいリクエストにも柔軟に対応していただきました」(小森氏)

AWSの生成AIのナレッジを獲得し 開発業務の内製化を実現
MyMUのRAGシステムのPoCは、サーバーワークスの伴走支援が終了した2025年1月以降も継続中で、現在も実業務で利用しながらフィードバックを収集しています。
MyMUのマニュアル検索と並行して取り組んだHEMSの技術相談管理データベースの検索については、コンテナとOSSのWebアプリケーションフレームワークを用いて内製でRAGシステムを開発し、独自にPoCを実施しました。

松本 常恭 氏
「HEMSのRAGシステムでは、MyMUとは異なるアプローチで開発工程の短縮とセキュリティの強化を図りました。HEMSはMyMUと比べて検索情報を絞り込みやすく、過去の回答履歴も充実しているため、プロンプトを最適化することで回答精度を高めることができました」とIoT検証グループ 専任技師の松本常恭氏は話します。
MyMUとHEMSの2つのRAGシステムの構築によって、IoT検証グループにはAWSの生成AIやGenU、RAGに関するナレッジが蓄積され、開発の内製化が実現しました。
「AWS初心者のメンバーがわずか3カ月でRAGシステムを構築し、MAWS-UGで成果を発表できた意義は大きく、先進的な技術にチャレンジするMEEのアピールにつながりました」(片山氏)
同様に小森氏も「サーバーワークスやMAWS-UGのサポートのおかげで、AWS活用のハードルが下がりました。業務DXに資するアウトプットを短期間で出せることが実証できたことを、今後社内にも展開していきたいと思います」と手応えを話します。
RAGシステム、生成AIの活用を拡大し 業務DXや顧客満足度の向上に貢献
今後については、プロンプトの最適化で成果を生み出したHEMSの例も参考にしながら、MyMUのRAGシステムの回答精度をさらに高めていく考えです。また、その先にはRAGシステムの社内での横展開やBtoC向けサービスとしての提供も視野に入れています。
「市場からの問い合わせ対応業務はMyMUやHEMS以外の製品にもあるので、RAGシステムの構築には高い汎用性があります。将来的にはコールセンターやエンドユーザーでも使えるシステムに発展させ、業務DXや顧客満足度の向上に貢献することも可能です。今後も機会があればサーバーワークスに伴走支援をお願いし、新たな技術課題にチャレンジしていきたいと思います」(小森氏)

三菱電機エンジニアリング株式会社様
三菱電機エンジニアリング株式会社は、“家電から宇宙まで”幅広い事業分野の製品やシステムの開発・設計を手掛ける、三菱電機グループの中核設計会社。三菱電機製品の開発・設計にとどまらず、自社ブランド製品の開発・設計も行っており、ハードウエアからソフトウエアまで多岐にわたる製品・サービスを提供している。社員の大半がエンジニアとして活躍しており、高い技術力と専門性を持つプロフェッショナル集団である。
取材に協力いただいた方々
- 片山 真史 氏(集合写真 左端)
- 三菱電機エンジニアリング株式会社 京都事業所 制御技術部 IoT技術課 IoT検証グループ 主査
- 松本 常恭 氏(集合写真 左端から二人目)
- 三菱電機エンジニアリング株式会社 京都事業所 制御技術部 IoT技術課 IoT検証グループ 専任技師
- 小森 琢也 氏(集合写真 左端から三人目)
- 三菱電機エンジニアリング株式会社 京都事業所 制御技術部 IoT技術課 IoT検証グループ 専任技師
- 吉田 莉菜 氏
- 三菱電機エンジニアリング株式会社 京都事業所 制御技術部 IoT技術課 IoT検証グループ
- 上野 桃佳 氏(集合写真 左端から四人目)
- 三菱電機エンジニアリング株式会社 京都事業所 業務部 業務課 総務グループ
※ この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
担当プロジェクトメンバー
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カスタマーサクセス本部 CS4課 村上 博哉
2024 Japan AWS Top Engineers (Machine Learning)。2020年にAmazon Pollyと出会ったことをきっかけに、前職の市役所職員からサーバーワークスへ転職。機械学習に興味があり、現在は生成AIを中心にお客様の支援を担当。好きなAWSサービスはAmazon SageMaker
選ばれる3つの理由
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Reason 01
圧倒的な実績数による
提案力とスピード- 導入実績
- 1440 社
- 案件実績
- 25600 件
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Reason 02
AWS認定の最上位
パートナーとしての技術力 -
Reason 03
いち早くAWS専業に
取り組んだ歴史