AWSの生成AIサービスを組み合わせたRAGを用いた社内文書検索アプリを開発。経営層を対象としたPoCも実施し将来的な外販化に向けたナレッジを獲得

1965年の創業以来、地方自治体から、金融、製造、流通、医療まで、幅広い業種の顧客や地域社会を支えるソリューションプロバイダーとして成長を続ける株式会社東日本計算センター。将来的なビジネスの拡大に向けて、生成AI関連のナレッジの獲得に取り組む同社は、サーバーワークスの支援を通じてアマゾン ウェブ サービス(AWS)の生成AIサービスを活用した社内文書検索アプリを3カ月で開発しました。経営層を対象としたPoCで一定の成果が確認されたことから、全社展開に向けた開発を継続しながら、将来的な外販化も視野に生成AI活用を本格化させています。
事例のポイント
Before
お客様の課題
- 将来に向けた生成AIのナレッジ獲得
- 生成AIビジネスの可能性の模索
- 生成AI活用の第一歩として「社内文書検索」を効率化
After
課題解決の成果
- AWSの生成AIサービス、RAGを用いた文書検索アプリの開発
- パッケージサービスを用いた短期間でのアプリ開発に成功
- 外販化に向けたアプリの機能強化、ナレッジの高度化
導入サービス
Index
生成AI活用の第一歩として社内文書検索の効率化を検討
福島県いわき市を拠点に地域に密着した事業を展開し、現在は東日本を中心にトータルソリューションサービスを提供する東日本計算センター。長年にわたって多くの顧客から信頼を得てきた同社の強みの1つとして、ますます加速するクラウドシフトなど新たなITトレンドへの柔軟な適応と人材育成があります。
このところ急速に利用が拡大する生成AIについても、ChatGPTをいち早く導入して社員に活用を呼びかけ、プロンプトエンジニアリングのワークショップを開催するなどの取り組みを続けてきました。ITインフラセキュリティ事業部 シニアエキスパートの大島富夫氏は次のように話します。

「生成AIに関するナレッジの獲得は、当社のビジネスの観点においても重要なテーマです。経営トップからは生成AIの技術を活用したサービスを開発し、近い将来、お客様に向けて提供していきたいという方針が明確に示されています」
その第一歩として着手したのが、社内文書検索の効率化でした。同社では、システム開発関連の仕様書や設計書といった技術文書や社員が日常業務で利用する各種申請書類などが、オンプレミス環境のファイルサーバーに大量に保存されています。しかし、ファイルはさまざまなフォルダに散逸しているため、社員は最新の文書を探し出して確認しなければならず、業務効率の低下を招いていました。
そこで同社は、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」と検索サービス「Amazon Kendra」の組み合わせによるRAG(検索拡張生成)を用いた社内文書検索アプリを開発し、PoCを実施することにしました。
「最初から社内にあるすべての文書ファイルを検索対象とするのは、技術的、コスト的にもハードルがあります。そこで、まず社員が交通費や出張旅費の計算などで頻繁に利用する約30種類のファイルを使って、必要な情報を簡単かつ迅速に取り出せるかを検証することにしました」(大島氏)
生成AIサービスにAmazon Bedrockを採用した理由は、AWSのフレームワークの中でセキュリティ要件を満たしながら、短期間でアプリが構築できる点にありました。またAmazon Kendraについても、エンタープライズ向けの豊富な機能やインターフェースを評価して採用を決めました。
サーバーワークスの技術サポートでRAGを用いた文書検索アプリを短期開発
文書検索アプリの開発パートナーには、従来から取引実績があったサーバーワークスを指名しました。選定の決め手は、生成AI関連の一連のサービスがパッケージとして提供される点にあったといいます。
「他社の提案が生成AI、RAG、チャットアプリを別々に構築してカスタマイズするものであったのに対し、サーバーワークスの提案はパッケージ化されたサービスによって、低コストかつ短期間で文書検索アプリを開発するものでした。技術ブログに書かれていたRAGの記事なども含めて、総合的に評価して決めました」(大島氏)
PoCの期間は2024年9月から11月までの3カ月間で、この間に文書検索アプリの開発と、アプリを使って必要な情報を抽出して要約の結果を確認するまでの検証を行いました。大島氏は「アプリの開発時はパッケージならではの導入のしやすさと、アーキテクチャ全体をカバーするサーバーワークスの技術サポートに助けられました」と振り返ります。
経営層を対象としたPoCを実施し生成AIビジネスの可能性を模索
アプリを利用した社内文書の検索は、次のような手順で行われます。まず社員が「出張費の申請方法を教えてください」といった質問をチャットで入力すると、Amazon ECS上のチャットWebアプリを介してAmazon Kendraに命令が送られ、データソースとして設定したファイルサーバー内を検索します。その結果はチャットWebアプリを介してAmazon Bedrockに送られ、検索で取得した文書ファイルの内容を要約した文章を自動生成して社員に回答するという流れです。

PoCの実施においては、対象ユーザーを10数名の経営層のメンバーに絞り、文書検索のヒット率や回答内容などの精度にはこだわらず、回答が返ってくるまでのプロセスを評価してもらうことを重視しました。
「今後、生成AI関連のビジネスを進めていくためには、その方針を決める経営層の理解は重要です。PoCでは有益なフィードバックが得られたことから、事業部からは実際に使ってみたいというリクエストも届き始めています」(大島氏)
文書検索アプリを外販化し顧客に新たな付加価値を提供
東日本計算センターでは、システムやリソースへのアクセス権を制御するための独自のACL(アクセス制御リスト)を実装するなど、現在も文書検索アプリの機能強化を続けています。また、今後は検索対象のファイルを拡大しながら、全社に展開していく構想を描いています。ファイルサーバー自体もMicrosoft SharePointに移行し、権限管理を強化しながら逼迫している容量の課題をクリアしていく計画です。

さらに将来的な展望として、今回のプロジェクトで獲得したナレッジを活かした文書検索アプリの外販化も見据えています。
「地方の中小・中堅企業では、オンプレミスのファイルサーバーをクラウドにシフトする動きが出てきています。こうした案件に対して、クラウドストレージと生成AIによる文書検索アプリをセットで提案することで、当社のサービスの付加価値を高めていけると考えています」(大島氏)
文書検索についても、Amazon Kendraとは別に、サーバーワークスから提案されたデータベースサービス「Amazon Aurora」を活用したアプリを構築して検証を進めています。同社では、仕様書や設計書といったシステム開発関連の技術文書については、Amazon Kendraよりも、ベクトルデータベースのAmazon AuroraとAmazon Bedrockを組み合わせたRAGのほうが、精度的にも使い勝手としても優れていると判断しています。
「図版やExcelシートなどが多く含まれる技術文書は、Amazon Kendraによる全文検索よりも、Amazon Auroraによるベクトル検索のほうが高い精度を得られる可能性がありますので、今後も検証を継続していきます」(大島氏)
代表取締役社長 鷺 弘樹氏からも次のようにコメントをいただいています。
「サーバーワークス様はAWSに特化した極めて専門性の高いクラウドシステムインテグレーターであると理解しております。この度、弊社の生成AIビジネスの可能性追求に対して、技術的な側面から多大なるご支援をいただき大変感謝しています。今後ますます拡大が予想される生成AIビジネスに関して、東日本計算センターは、常に社会やお客様の課題解決の視点を大事にし、一歩先を見据えた事業展開を加速してまいります。」(鷺氏)
ソリューションプロバイダーとしての豊富な実績を背景に、生成AIの本格活用と外販化に動き始めた東日本計算センター。AWSに関する高度な知見を備えたサーバーワークスとのパートナーシップは、同社の新たなサービス開発においても大きな貢献を果たしていくはずです。

株式会社東日本計算センター様
1965年に福島県いわき市で設立。現在は、官公庁、地方自治体などの行政、金融、製造、流通、医療などの幅広い業界に対して、業務系システム、制御・組込系システム、インフラセキュリティシステムなどの各領域で、ライフサイクル全般にわたり事業を展開している。近年では、ロボット/ドローン制御の研究開発にも取り組んでおり、半歩先の技術を研究・実証しながら、地域社会への貢献を目指している。
お話を伺った方
- 大島 富夫 氏
- 株式会社東日本計算センター ITインフラセキュリティ事業部 シニアエキスパート
※ この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
担当プロジェクトメンバー
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カスタマーサクセス本部 CS4課 村上 博哉
2024 Japan AWS Top Engineers (Machine Learning)。2020年にAmazon Pollyと出会ったことをきっかけに、前職の市役所職員からサーバーワークスへ転職。機械学習に興味があり、現在は生成AIを中心にお客様の支援を担当。好きなAWSサービスはAmazon SageMaker
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