生成AIの活用による開発効率化とは?注意点や主な手順、開発の事例

ChatGPTなどの生成AIを業務で活用する事例は、幅広い業種や職種で急激に増えています。ただ、生成AIの活用はまだ手探りな部分も多く、効率の最大化やリスクについても把握しておく必要があるでしょう。そこで今回は生成AIの活用方法や開発効率化のポイントについて解説します。
この記事でわかること
- 生成AIをシステム開発に導入することで業務効率や生産性が向上する
- 生成AIには「情報漏洩」「ハルシネーション」などのリスクがある
- 生成AIの導入は「構想」「PoC検証」「実装」「チューニング」「運用と改修」のステップを踏むことで導入効果が得られる
※当記事は2025年3月に書かれたものであり、以後に展開された最新情報が含まれていない可能性がございます。
生成AIに関する基礎知識
近年、ChatGPTをはじめ、生成AIを業務に活用する動きが活発になっています。しかし、生成AIについて漠然としたイメージしかないという人も少なくありません。ここでは、生成AIに関する基礎知識を紹介します。
そもそも生成AIとは?
生成AIとは、文章・画像・コードなどを自動生成できるAI技術のことで、ChatGPTやGitHub Copilotに代表されます。従来の特定用途AIと異なり、深層学習により多様な出力が可能です。具体的にはリサーチから企画立案、メール・企画書といったビジネス文書の作成、ソフトウェア開発など幅広いビジネスシーンで活用が広がっています。
生成AIを業務に導入することで得られる効果
生成AIの活用によって、さまざまな効果が得られます。ここでは、生成AIを業務に導入することで得られる効果について詳しく解説していきます。
作業効率や生産性の向上
生成AIの活用目的の大きな理由の一つが「作業効率や生産性の向上」です。従来のAIにも共通するメリットでありますが、これまで手作業で行っていた単純作業を自動化できれば時間の節約につながるでしょう。
また、手作業で行うと避けられない人間のミス(ヒューマンエラー)も生成AIに行わせることで、ミスの発生軽減はもちろん、レビューや修正の時間も減少します。従来のAIでは行えなかった幅広い領域でのデータ収集や分析、レポート、デザインといったアウトプットも生成できるのが生成AIの大きなメリットといえるでしょう。
人手不足の解消につながる
単純な作業や定型的な社内業務を生成AIに実施させることで、その分の人手を別の業務に割り当てることができます。少ない人数で効率的に業務ができるため、人手不足解消に貢献します。
また、生成AIは従来の専門的な領域に限らず、さまざまな作業に対応できる可能性があります。例えば、プログラミングコードの出力や複雑なデータ分析など、一定の知識や経験が求められる作業が挙げられます。そのほか、会話形式でAIに質問することでDBやネットワークといったインフラに関わる領域まで、広く深い疑問の解消にもつなげられるでしょう。
コスト削減が期待できる
生成AIによって、繰り返し行う「定型業務」を自動化すれば、間接業務の効率化につながり人件費の削減が期待できます。前述した通り、生成AIは人間が行うよりも開発業務上のミスが少なくなるため、対応工数を軽減し、空いたリソースを他の業務に割くことができます。ほかにもChatGPTをはじめ、生成AIのコンテンツは無料で利用できるものが多くあるので、イニシャルコストの削減を図りやすいのもメリットといえるでしょう。
新たなアイデア創出につながる
単純な作業や定型的な作業を生成AIに実施させ、ミスの確認や修正に割くリソースを削減することで、人手を新たなアイデア創出に割り当てられます。また、生成AIを活用することで新たなビジネスアイデアが生まれることがあります。
例えば、生成AIへの指示・質問である「プロンプト」の精度をユーザーが高められたら、より高品質なアイデア創出を促進することが可能です。さらにさまざまな生成AIを組み合わせたり、膨大なデータを生成AIで分析したりするとより効果的です。また、一度に大量の案をアウトプットできるのも生成AIの特徴であり、キャッチコピーのたたき台なども効率的に作ることができます。
顧客満足度の向上が図れる
生成AIには、チャットボットなどの自動会話を行うコンテンツがあります。24時間対応が可能で、カスタマーサービスとして有効です。生成AIに事前に簡単な問いと答えを覚えさせることで、Webサイトのよくある質問などのメニューを簡単に構築することができます。
生成AIは大量の問い合わせを24時間、即時的に均一の品質で応答できるため、顧客の待ち時間を短縮し、時間を気にせずに問い合わせが可能になることで、顧客満足度の向上が図れます。また、日本語以外に、多言語に対応しているコンテンツも場合によって効果的です。
生成AI活用による開発効率化
生成AIは既存のシステムを活用するだけでなく、自社のシステム開発の効率化という効果も期待できます。ここでは、生成AIの活用が、ソフトウェア開発などにどのような効果をもたらすかを解説します。
開発作業の効率化が図れる
アプリケーション開発においてプログラミング作業は不可欠であり、生成AIを利用すれば、ソースコードの自動生成やデバック支援などが可能です。
生成AIの処理速度は、人手よりも早いため、開発スピード向上につながるでしょう。また、開発のスピードを早める以外に、システムのリリースへ迅速につながることで、プロジェクト全体の効率化が可能です。
品質の向上につながる
前述した通り、生成AIのコード自動生成を活用することで、人による軽微なミスが発生しないため品質の向上につながります。
また、テストコードの自動生成が可能であるため、テスト不足によるバグの見逃し防止も図れるでしょう。ほかにも、命名規則などのコーディング規約を基にプログラムを記述したり、レビューしたりすることができます。品質を上げる以外にも、コードの可読性を高めることも可能です。
開発の負担軽減につながる
プログラミング時に発生した疑問を生成AIに投げかけることで、素早く回答を得ることができます。コーディング例などの生成も可能なので、都度、必要な情報を得ながら開発が可能になることは、リサーチにかかる負担の軽減につながります。
生成AIでは、適切な指示を行うことで設計書の下書きもできるため、ドキュメント作成の負担軽減にも貢献します。また、設計書を読み込ませることで、設計書の要約も可能です。
このように生成AIの活用は固定的な開発プロセスに縛られることなく、工夫次第でさまざまな活用方法ができるのです。
生成AI活用による開発の注意点
生成AIの活用によって、開発業務の効率化や品質向上といった多くのメリットが得られる一方で、導入や運用にあたってはいくつかの注意点も存在します。
たとえば、処理の再現性や安定性を担保するためには、十分な計算リソースや実行環境の整備が必要です。また、プロンプト設計や出力結果の検証など、AIの特性を理解した人材の関与も欠かせません。
開発現場で生成AIを活用するうえで、特に注意しておきたいポイントを技術面・運用面から解説します。
著作権を侵害するおそれがある
生成AIを活用したコンテンツ作成は、著作権を侵害するおそれがあります。なぜなら、生成AIでコンテンツを作成する場合、参考とする大量の学習用インプットデータが必要となるからです。
その学習データの内容により、既存コンテンツが似通ってしまい、既存コンテンツの著作権者から指摘を受ける可能性があります。こうした懸念に対しては、Amazon CodeWhispererのような、出力結果が学習したコードの再現を避ける仕組みを導入するなどの対策を講じることが重要です。
情報漏洩リスクが高くなる
生成AIを利用する際には、情報漏洩のリスクを意識する必要があります。生成AI利用時に入力するデータが社内の機密文書や顧客データである場合、オープンソースの生成AIであれば、仕組上は同じ生成AIを利用する他の利用者に出力データとして表示される危険があります。特に、無料の生成AIで利用者の入力データを保持、解析している場合は注意が必要です。
ハルシネーションが発生することがある
生成AIを利用する際には、ハルシネーションを意識する必要があります。ハルシネーションとは生成された情報が事実と異なるのに、まるで事実のように生成されることです。
生成AIは学習した統計を基に次に来る文章を予測して出力する仕組みであるため、事実検証までAI技術が追い付いていないという課題があります。そのため、生成された情報をファクトチェックせずに利用・公開してしまうと、社内外に混乱を招くリスクがあるのです。
開発費用が減るおそれがある
生成AIの活用で開発作業の効率化について紹介しましたが、今後、生成AIの活用が一般的になることで開発費用そのものが減ってしまい、結果的に売上が下がってしまう事態も想定できます。
例えば生成AIを活用することで開発の効率化がすすみ、人手がいらないと判断され、開発期間の短縮や人員の削減、コストの積み上げが適切に行われなくなってしまうケースも考えられます。
その結果、作業のほとんどが生成AIに代替されてしまうと、エンジニアの単価が低くなる可能性があります。
セキュリティ要件との不整合がありえる
特にエンタープライズ開発においては、社内規定や取引先との契約によって「外部サービスとの通信禁止」「クラウド利用の制限」などのセキュリティ要件が定められている場合があります。生成AIが外部APIを使う仕様の場合、要件を満たせず導入が頓挫するリスクがあります。
生成AIを活用したシステム開発の主な手順
生成AIを活用してシステム開発をしたい場合、どのような手順で導入すればいいでしょうか。ここでは、生成AIを活用したシステム開発について詳しく解説します。
STEP1:構想
まず、どのように生成AIを活用するかを「構想」します。その際に自社における現状の課題を明確にし、解決につながるような生成AIを選定しましょう。導入を考えている生成AIについての理解を深めることも重要です。
また、開発費用の試算(ROI)を行うことで、活用する生成AIをより具体的に絞ることができます。この時点でプロジェクトチームを立ち上げて、要員の確保とタスクの整理を行います。
STEP2:PoC検証
次に「PoC検証(Proof of Concept)」を行います。PoC検証は概念実証ともいい、活用する生成AIが実際のシステム開発にどのように役立つかを検証する一連の作業を指します。実際に生成AIを動かすことで、想定よりも活用できないなど適用前に把握しておくことが重要です。
PoC検証サイクルは活用方法の範囲や改善点など、早期に把握する重要なステップとなります。生成AIにはさまざまなの種類があるため、機能の比較を行いながら「PoC検証サイクル」を回しながら選定、検証します。
STEP3:実装
PoC検証の結果、システム開発に活用できると判断したら実装に進みます。生成AIの機能を組み込む際には、STEP1で洗い出した課題が解決することが目的であることを意識して実装を行います。
生成AIのデータに対するノイズ除去や正規化などの前処理が必要な場合も、このステップで行います。また、通信などのセキュリティやログ管理なども忘れずに実装することが重要です。
STEP4:チューニング
チューニングはとても重要な作業で、生成される結果の質を調整することを指します。調整は、ユーザからのフィードバックやログ分析を行い、改善点を見つけます。
また、生成AIの回答精度をあげるチューニングを行うと、ハルシネーションのリスクを下げることが可能です。
STEP5:運用と改修
チューニングが完了したら運用を開始します。利用状況や回答の精度を確認するとともに、利用者の意見を収集します。利用頻度が少ないなど、上手く活用されていない場合は改修を検討しましょう。
また、利用する生成AIによっては、最新バージョンがリリースされることがありますので、状況に応じてアップグレードします。
生成AIを活用した開発効率化の事例
最後に生成AIの活用事例を紹介しましょう。
国内トップクラスのITサービス企業では、生成AIを活用したソフトウェア開発を推進しており、従来の製造工程だけでなく、要件定義から設計、製造、テストまでの全工程に生成AIを導入しています。特に製造工程においては、モダナイゼーションなどの新環境に移行するための「マイグレーション案件」で生成AIの提供および関連アセットの整備が進んでいます。成果も着実に重ねており、例えばOracle DBから Postgre SQLへのデータベース移行の案件では、5割の工期短縮に成功。XSLからJSPへのプログラム言語の書き換えにおいては、7割の合理化で従来の方法と比較して3倍の生産性向上を実現しています。
この事例のポイントは、一連の工程を短期間で繰り返す「イテレーション」的な進め方を採用したことにあります。エンジニアが適宜プロンプトを修正することで、精度を高めることができました。このような進め方は、事前に決めた要件に基づいて順番に開発を進めるウォーターフォール開発と相性が良いのですが、機能単位で繰り返し開発し、フィードバックを反映させるアジャイル開発においても、徐々にプロンプトを変更して自動変換できる点から将来的には対応できると考えられます。
生成AIを活用して開発効率化を実現しよう
生成AIは、コード生成や設計支援といった定型業務を効率化し、ミスの削減や品質向上にもつながる技術として注目されています。実際にIT業界はもちろん、小売り、宿泊、製造増、金融といった幅広い業界の現場の一部では、開発工数を大幅に削減しながら、生産性や顧客満足度の向上を実現しています。
一方で、生成AIには著作権・情報漏洩・ハルシネーションなどのリスクも存在し、導入には技術的な検証や運用体制の整備が欠かせません。事業で活用するのであれば「とりあえず使ってみる」ではなく、自社の課題に即した活用方針を持つことが、成功へのカギとなります。
サーバーワークスでは、生成AIの導入企画からPoC、実装、運用までを一貫して支援しています。技術選定・活用設計・リテラシー教育まで、現場に根ざしたサポートを提供しています。生成AI活用を本格的に検討したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。