小売×ITの未来を創出し、新しい消費行動を生み出すベイシアグループのクラウド活用
ベイシアグループは、ホームセンターやショッピングセンターなど、物販チェーンを中心とした流通グループです。近年では「IT小売宣言」として、ITを活用した小売業のDXに取り組んでいます。

2022.10.05 掲載
AWSを活用したグループ内の保険サービスに関する、セキュアなWebサイトの基盤構築をサーバーワークスに依頼した経緯や導入後の効果に加え、ベイシアグループが取り組んで来たIT利活用のこれまでと未来について、株式会社ベイシアグループソリューションズ 竹永氏に伺いました。
事例のポイント
- お客様の課題
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- グループ会社向けWebサイト基盤の手配と運用
- 個人情報の取り扱いもあり、セキュアな対応が必要
- 課題解決の成果
-
- AWSのマネージドサービスを活用したセキュアなWebサイト基盤の構築
- サードパーティ製セキュリティサービス(Waf Charm / Cloud One)を導入し、より強固な対策を実施

株式会社ベイシアグループソリューションズ様
ベイシアグループは群馬県を拠点とし、物販、流通など29社で構成する流通企業グループで、北海道から九州、沖縄まで、47都道府県にネットワークを拡大し、従業員数は27,000人を超えます。2019年に設立60周年を迎えたスーパーマーケットのベイシアをはじめ、ホームセンター最大手のカインズ、作業服最大手のワークマンなどの商品戦略にも見られるように各社の専門性を活かしながら、グループとして様々な情報を共有することで、グループとしてのメリットを追求し、2020年10月に「グループ売上1兆円」を達成しています。
お話を伺った方:
株式会社ベイシアグループソリューションズ
グループソリューション戦略室 室長
竹永 靖 氏
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
目次
グループをあげたDX推進に向かう「IT小売業宣言」
ベイシアグループは、2018年に「IT小売業宣言」を発表しました。ITを駆使する小売業へと変革を遂げるため、以降、グループ内で積極的なIT活用が進められています。
宣言の背景には、海外の先進的な取り組みを視察したうえでの危機感があります。2017年頃から、海外で行われるカンファレンス等に経営陣が参加するようになりました。当時ベイシアグループではオンプレミスのサーバーを使っていましたが、日本でもクラウドの流れが鮮明になってきていました。また、ITを活用した小売業の事例も参考にすべく、積極的に学びに行っていました。サーバーワークスとも、とある海外カンファレンスで出会ったことで、ご縁ができたのです。
当初、技術者向けのカンファレンスだと思っていましたが、CTOやCIOだけでなくCEOやCMOが登壇し、小売業のDXに本気で取り組んでいる人たちが集まり、紹介される事例も当時最先端のものばかりでした。オンラインでの在庫検索や取り置き、決済などにより、店舗は実物を確かめにいくための場所として使われるなど新しい消費行動のかたちが、すでに実現されていました。
日本でも取り入れなければ遅れをとってしまう、という危機感から、ベイシアグループでもIT活用に大きく舵を切ることになります。
「ハリネズミ経営」を支えるグループシナジー
宣言のずっと前から、グループ全体のシナジーを活かし、ITソリューションを効率的に一括で行う組織としてベイシア流通技術研究所が、グループ各社からの出向者を集めて編成されていました。組織として立ち上がったころは「IT人材」という言葉も一般的ではなく、システムメンテナンスに近いニュアンスで、従業員向けのPCやメールアドレスの整備などを担っていました。
近年は「IT小売業宣言」も受け、従来のバックオフィスだけでなく、各社のフロント側で、時代の変化にあわせITソリューションを活用した新しい施策の機運が高まる中、2021年1月にはグループを横断したDXを進めるベイシアグループ総研が、2022年7月には新会社としてベイシアグループソリューションズが立ち上がり、グループを横断した共通システムだけでなく、各社ごとのユニークなDX施策をより加速させていきます。
ベイシアグループでは「ハリネズミ経営」と呼ばれる、グループ全体の効率ばかりを重視するのではなく、その業界の中でいかに各社がユニークに「とがって」いくかを大事にする経営を行っています。同じグループだからといって、画一的に横串にすることはしていません。その方針の中でも、グループとして各社の施策の成功例、失敗例を情報として集約し、活用していくことでシナジーを活かしています。
小売業のDX推進の課題のひとつに、IT人材の採用もあります。例えば年間休日数などに関連する小売の一般的な商慣習と、IT人材が求める条件に乖離があることも多い。そのため、雇用形態を変え、ITに特化した専門の組織を新会社として立ち上げることで、小売業のDXの可能性に魅力を感じた人材が、グループで力を発揮できる環境を整えています。
ECと店舗のよさを融合させ、新しい来店体験を創出
グループ各社の具体的な取り組みとして、ホームセンター業界での売上高 第1位となったカインズでは、現地視察に赴き、海外ベンダーと取引しながら従業員向けの在庫管理アプリを構築し、まずは従業員にIT活用の利便性を浸透させていきました。
店頭では、お客さまから商品の陳列場所や在庫を尋ねられる業務が約8割。ベテラン店員であればすぐ答えられても、新しいメンバーや他店の応援として臨時で対応する人もいます。そういった場合でも、アプリに頼れば誰でもすぐに対応できるという点もメリットです。
まずは従業員に利便性を理解してもらったうえで、店舗のIT環境を整えていき、徐々に店頭でのお客さまの体験を向上させていきました。
最近では新型コロナの影響もあり、人の多い場を避けたり、在庫を事前に調べてから来店する効率のよい購入体験を求めるお客さまも増えており、ピックアップロッカーの導入にも取り組んでいます。
業界1位のカインズに対して、ベイシアは先を走る競合もいますので、まずは差別化よりも同質化を進めていきました。そのひとつがポイント制度です。
グループでは2013年にカインズがポイント制度を導入しますが、カインズ オリジナルブランドで万が一リコールが起こったとしても、お客さまに迅速にコンタクトがとれるように、という目的が主でした。ベイシアはプライベートブランドが少なかったのと、毎日ご来店されるお客様もいる中、クーポンや割引で安くするよりも、毎日お安いほうがいい、という考え方であり、ポイント制度については導入は見送っていました。
しかし2019年の消費増税の際、表示価格が高く見えるようになってしまったこともあり、ベイシアとしてもポイント制度、そしてお客さま向けアプリを導入しました。現在では非常に多くの方に使っていただいています。
ワークマンについては、当時まだできていなかったECサイトの立ち上げを行いました。ただ、店舗受け取りだと送料無料にするなど、来店いただく仕組みを残しています。商品が良ければ来店していただけますし、フランチャイズ制をとっているため店舗オーナーとのコンフリクトも避けられます。
現在商品開発を積極的に進めていますが、キャンプ用品については店舗に在庫を置かず、店舗受け取りでのオンライン注文が入った場合に店舗に届けるなど、商品ジャンルの特性によってECと店舗をうまく使い分け、効率のよい流通を実現しています。
セキュアな環境を構築・運用できる信頼感が決め手
現在サーバーワークスと取り組んでいるのが、ベイシア総合保険サービスとカインズ総合保険サービスです。従業員のみなさんが保険見積もり・申し込みができるサイトで、今後対象者の範囲を拡大していく予定です。AWSを使うにあたり、サーバーワークスに、仮想サーバーの運用、セキュリティ対策などを依頼しています。
自社でサーバーを構築する選択肢もありますが、効率やセキュアな環境を考えると専門のベンダーに依頼するのがベストと判断し、カインズのコーポレートサイトの構築・運用で、すでに取引実績のあったサーバーワークスに依頼することになりました。
実は昨年にベイシア内で個人情報漏洩が起きており、その苦い経験から、セキュアな環境の重要性は身にしみて理解していました。お客さまの信頼を失わないためにも、二度と起こしてはいけない、という意識がグループ内で高まっていたところ、個人情報を扱う新しいサイトの構築の話があがり、慎重に検討しました。
AWS自体にも信頼をおいていますが、さらにセキュアに運用してくれる依頼先として、サーバーワークスほぼ一択でした。

安心・安全をスピード感をもって実現するプロフェッショナル集団
これまでご一緒してサーバーワークスに感じているのは、専門性の高さとスピードの速さです。まるっとお任せできる安心感もありつつ、あまりにプロフェッショナルで、先を行き過ぎるので、ついていけないときがあるくらいです(笑)。
今回の座組は、サーバーワークスのほかにアプリ構築のベンダーにも入ってもらい、3社でプロジェクトを推進中です。今後予想されるのは、業務側であれもこれも、とやりたいことへの要望が出てくること。アプリ側はその要望に積極的に応えようとすると思いますが、基盤のサーバーワークスには、実はブレーキになってほしい。それは難しい、それはこういう被害があるかもしれないなど、これまでのノウハウを活かしながら、便利なだけでなく、お客さまに安心して使ってもらえる、安全なサービス提供を実現するためにも、サーバーワークスさんに期待を寄せています。
DXの実現で、IT×小売の未来を現実に
四半世紀に渡り、この業界を見てきましたが、実は昔からそんなに変わっていません。通信販売に携わっていた2000年頃によく言われたのは、ITの波で通販はなくなり、全部ECに置き換えられる、ということ。でも通販もしっかり残っている。日本人の買い物の仕方はあまり変わっていないんです。日本のEC化率も、アメリカや中国と比較すると伸びてはいない。
店舗へ足を運ぶ、という消費行動が変わらないのであれば、どの店にいくのかの選択肢として、ITで便利なベイシアグループのお店を選んでいただく、ということが大事です。取り置きや取り寄せ、在庫確認はできて当たり前で、必要に応じて自宅にお届けするなど、店舗を中心にしたIT活用が、まさに小売業のDXの中心になっていくと思います。
最近、大学院に通い始めて、経営、デジタル、脳科学を学んでいます。なぜそのサイトを見たくなるのか、なぜその商品を買いたくなるのか、意思決定を数値化し、消費行動を理解しようとしています。
私自身、なんでも便利に使いたいタイプです。買い物に関して、痒いところに手が届くのは普通になりましたよね。そのうえで、いま実現されようとしているのは、どこが痒いのかを察知すること。さらにその先の、裏の裏をかく、本人も気づかなかったようなリコメンドが行われていくと、また新しいIT×小売の未来が実現されていくかもしれないですね。
AWS導入・活用に関するご相談はサーバーワークスへ
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