AWS Elemental MediaConvert を活用したセキュアな動画配信基盤
どのような環境からでもストレスなく、セキュアに動画を観られる動画配信基盤をAWSのサービスを組み合わせて構築しました。社員間での情報格差が解消されたほか、動画配信の際の煩雑な作業が不要となり、様々な業務で動画活用が進んでいます。

2022.04.01 掲載
AWSを活用した動画配信基盤の構築とその成果について、千趣会 IT戦略部 システム管理チーム エキスパートの池本修幸氏と千趣会 経営管理部 IR広報・サステナビリティ推進チーム マネージャーの曽田峰央氏に伺いました。

目次
導入の概要
ベルメゾンネットを中心に幅広い通販ビジネスを展開する千趣会では、社内で経営層のメッセージなどをタイムリーに共有するため、動画配信を活用していました。しかし、新型コロナウイルス対策でテレワークを実施したことで、自宅などからオンプレミスにあるストリーミング環境にアクセスするのが難しくなり、働く状況により社員間で情報取得に格差が出てしまうのが問題でした。
千趣会ではもともとAWSを活用し、クラウド化には積極的に取り組んでいました。そこで新たにどのような環境からでも簡単にストレスなく、セキュアに動画を観られる環境を、AWSのサービスを組み合わせて実現したのです。またこれまで手間のかかっていた動画データの変換作業についても、オリジナルの動画データをAmazon S3にアップロードするだけで動画を配信できるように自動化し、大幅な効率化を実現しています。結果、動画配信のハードルが大きく下がり、新たな動画の活用も始まっています。
株式会社千趣会について
通販事業ベルメゾンのオンラインショップ「ベルメゾンネット」を中心に、通販ビジネスを広く展開する千趣会。コロナ禍の巣ごもり需要の高まりもあり、同社のビジネスは堅調に推移しています。千趣会は世の中の生活スタイルが変わっても、「ウーマンスマイルカンパニー」として常に女性のことを考え、女性に寄り添って活動しています。そのために関連会社の体制の見直しなど、千趣会自身の変革も進めています。
変革の1つが、デジタル技術の活用です。洗練された使いやすいECサイトの提供はもちろん、社内システムのクラウド化にも積極的に取り組んできました。DX推進の一歩としてレガシーシステムから脱却し、クラウドへのリフトを進め、そこから各システムを融合しクラウドに最適化する取り組みが行われています。これについては、2021年からの中期経営計画の中で、2025年までのデジタルシフトで他社との共生、共創関係を作っていくことを明らかにしています。
検討のきっかけ
DXに積極的に取り組む千趣会では、以前から社内における動画の活用を実施してきました。会社の現状や経営層の考え方などの理解を深めるために、社員は四半期決算報告を動画で視聴しているのです。一方で新型コロナウイルスの感染対策もあり、千趣会では柔軟な働き方を実現するためにテレワークを取り入れています。出社していれば円滑に動画を観られますが、テレワーク環境からオンプレミスにあるストリーミングサーバーにアクセスし動画を観る際にはネットワーク負荷が高くなってしまいます。
ストリーミングが難しいためダウンロードするという方法もとってきましたが、動画はデータサイズが大きくダウンロードに手間がかかり、大勢がいっせいに閲覧しようとするとネットワークへの大きな負荷となります。結局は出社した際に観ることとなり、人により情報取得にタイムラグも発生します。「経営層から発信されるメッセージを、全ての社員がタイムリーに観られないことが課題でした」と言うのは、千趣会 IT戦略推進室 システム管理チーム エキスパートの池本修幸氏です。
コロナ禍が長期化していたこともあり、今後のさらなる動画配信の活用を見据え、千趣会では動画配信環境の刷新を検討します。新たな動画配信環境では、在宅時でもストレスなくタイムリーに動画が観られること、広報担当者など専門スキルがなくても配信用動画の変換作業が簡単に行えることを要件としました。
千趣会ではクラウド化を進めているため、新たな環境はAWSで実現したいと考えました。そこで以前からサポートを依頼していたサーバーワークスに相談し、提案されたのがAmazon CloudFront、Amazon S3、Amazon SNSやAWS Elemental MediaConvertなどを組み合わせた環境でした。
サーバーワークスには、既に動画配信基盤をAWSで構築してきた実績がありました。その上で、新しく利用できるようになったAmazon S3のInterface型VPC Endpointを活用すれば、オンプレミスから専用線で、あるいはInternet VPN経由などで、直接Amazon S3にアクセスできます。こうした構成であれば社内からもテレワーク環境からもストレスなくアクセスできると考え、この機能をいち早く取り入れることにしたのです。さらに社内だけでなく将来的に外部からも安全に動画を観られるよう、限定公開の仕組みも取り入れました。
動画変換に関しても、データをアップロードすれば変換ジョブが起動し自動で圧縮変換処理を行うように構成しました。「サーバーワークスは、要件を伝えただけで我々の要望にぴったりの提案をしてくれました。そのため、安心して構築を任せることができました」と池本氏は言います。今回のプロジェクトでは構築作業は全てサーバーワークスに任せましたが、ゴールはしっかりと共有していたので途中で発生する疑問も迅速に解決でき、プロジェクトは当初の予定通りに進みました。
導入後の効果
できあがったAWS上の動画配信環境では、Amazon S3にオリジナルの動画データをアップロードすると、AWS Lambdaが動きAWS Elemental MediaConvertの動画圧縮処理のジョブが起動します。圧縮処理が終わると、動画を外部配信用のAmazon S3にアップロードし、そこから同じAWSアカウントのClient VPN用Amazon S3と、他のAWSアカウントの社内用Amazon S3に動画データをレプリケーションします。それぞれの視聴環境に合わせて専用の視聴用URLを発行しユーザーに配り、それにアクセスしてもらえば、どの環境からも容易に動画が視聴できます。

以前のWindows Serverベースのストリーミング環境は、社内からアクセスしていても、立ち上がり・読み込みともにかなり時間がかかっていました。今回の環境では「Amazon S3のリンクをクリックすればすぐに立ち上がり、ストレスなく動画が観られます」と池本氏。データは圧縮していますが、画質劣化などもほとんど気にならないと言います。テレワークで在宅の環境からAWS Client VPN経由でアクセスする場合も、社内と遜色はなく「ロケーションの違いによる情報取得格差も解消されています」と言います。
アクセス負荷を軽減するための事前準備など、広報担当者の負担も軽減されました。以前の動画配信基盤では、テレワークでも全員が動画を迅速に観られるように、負荷が集中しないようスケジュールを切り、ダウンロードタイミングを社員ごとに割り振るようにしていたのです。社員700人ほどをグループ分けし、曜日と時間を指定する割り振り作業は、広報担当にとっては大きな手間でした。千趣会 広報の曽田峰央氏は、「新しい環境ではその作業も一切必要なくなりました」と言います。
また動画共有ではGoogle DriveやYouTubeを利用する方法もありますが、セキュリティをどう確保するかが課題となります。今回は社外からのアクセスではURLを期限付きに設定するなど、しっかりとセキュリティを担保しています。「AWSを用いて簡単便利に利用でき、セキュリティが担保できているのが、今回の動画配信の仕組みでは重要な要素です」と池本氏は言います。
他にも手作業で行っていた動画データの変換作業や社内サーバーへのアップロードの手間がなくなったのもメリットです。「たとえば2時間の動画を変換するには、40分ほどの時間がかかっていました。その作業は一切必要ありません。その分、動画の中身の編集に時間をかけられます」と曽田氏は言います。またこれまで社内サーバーへのアップロードは経験がないと対応が難しく、担当者が変わった際などに引き継ぎをするのも簡単ではありませんでした。これの対応がなくなったため、誰でも簡単に動画データを社内共有できるようになったのです。
動画配信が容易になったことが社員間でも認識され、社内広報用の情報共有だけでなく、システムマニュアル動画など他の業務領域でも動画の活用が始まっています。「今回の仕組みの構築により、社内での動画公開のハードルはかなり下がっています」と池本氏。今後はさらにさまざまな業務で動画を活用することになりそうだと言います。
「コスト面でも、今回のAWSで構築した動画配信環境はオンプレミス環境のサーバー保守やメンテナンスにかかる環境維持の費用と比べ、半分ほどになっています。動画配信の利用が増えているので、今後はAmazon S3の利用コストが多少増加すると予測されますが、それ以上に動画をストレスなく共有できるメリットは大きいです」と池本氏は言います。
今後の展開とサーバーワークスに期待すること
千趣会ではこれまでも、さまざまなシステムをAWSで構築しています。今後もメインフレームの脱却など、さらにAWS活用が加速するでしょう。そしてクラウド化によるコスト削減だけでなく「AWSの最新技術を用い、中期経営計画でも謳っている共創の仕組みをスピーディーに作っていきます」と池本氏。その上でデジタルを活用し新たな事業にチャレンジして、経済産業省のDX認定を取得するためにも、今後は内製化が鍵になるとも考えています。
とはいえ、社内だけでAWSの技術アップデートを追いかけ活用体制を作るのは簡単ではありません。千趣会では、内製化の実現においてもサーバーワークスにサポートして欲しいと考えています。「サーバーワークスには案件単位での支援だけではなく、パートナーとしての持続的な支援を期待しています」と池本氏。自分たちの足りないところを適宜支援してもらい、一緒にAWSの活用を推進していきたいとのことです。
担当エンジニア紹介
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