伴走型支援サービス「クラウドシェルパ」を活用して、AWS上での内製開発を推進 ガバナンスの強化、コストの最適化を実現

埼玉県を中心に 195 店舗(2025 年 3 月末時点)の食品スーパーマーケットを展開し、36期連続「増収増益」を達成している株式会社ヤオコー。デジタル化によるビジネスアジリティの向上を目指して、アマゾン ウェブ サービス(AWS)をベースとしたクラウドネイティブ化を進め、内製化に舵を切った同社は、サーバーワークスの伴走型支援サービス「クラウドシェルパ」を採用し、オブザーバビリティの向上、運用の自動化、ガバナンス強化の3つを軸にさまざまな施策に取り組んでいます。現在は約50名のデジタル統括部のうち、プロダクト開発担当部のメンバーが主体的に内製開発を推進し、着実な成果が生まれつつあります。
事例のポイント
Before
お客様の課題
- 複数の外部ベンダーの関与により、AWS利用が統一的なガイドラインで管理されていなかった
- 複数アカウントの乱立によるコストコントロールの課題
- システムごとの個別最適化により、開発・運用の標準化が進まなかった
After
課題解決の成果
- ガイドラインの策定・統合管理基盤の構築により、分散していたAWS環境を一元管理し、AWS利用にかかるガバナンスを統一化
- 専門家による環境診断と自動化ツール活用により、クイックかつ継続的なコスト最適化を実現
- 内製開発のさらなる推進に向け、統合管理基盤の構築、自立した開発・運用体制を構築
Index
多種多様な外部ベンダーの関与によりシステムのサイロ化が課題に
経営戦略の一環として、2021年からIT部門の強化に着手し、DXによる店舗の生産性向上と顧客サービス向上を目的として、AI需要予測による自動発注システム導入や店舗業務のモバイル化、フルセルフレジやヤオコーPayの導入などの施策を推し進めるヤオコー。
一方、2021年以前から各種システムをAWSへリフトする取り組みを進めてきたものの、社内のナレッジ不足・マルチベンダー状態が足かせとなり、結果としてAWSの特性を活かしたシステムの柔軟性を発揮できず、期待した成果にはつながりませんでした。
執行役員 CDO(Chief Digital Officer) デジタル統括部長の小笠原暁史氏は「当時はインフラ担当が少なく、AWSアカウントの管理やインスタンスの構築・運用はベンダー依存となっていました。結果として、システムのサイロ化が進み、全社的な統制や最適化が困難な状況でした」と振り返ります。

小笠原暁史氏
このままではクラウドのメリットを十分に活かせないと考えた同社は、自社でハンドリングできるAWS環境を別で構築し、その環境を起点に内製化を推進し、ナレッジを向上させて、AWSサービスの活用を高度化できる方向に踏み切りました。
「利益率が低い小売業界においては、限られたコストでより良いシステムやサービス基盤を短期間で提供することが私たちのミッションですが、それを担保するためのインフラ領域は課題がありました。AWSをハンドリングする体制は作れたものの、AWSのサイクルの早いテクノロジー進化をキャッチアップすることや、メンバーのスキルアップには、やはり外部のパートナーの伴走支援が不可欠でした」(小笠原氏)
AWS有識者による複雑なAWS環境の診断「Cloud Automator」などを活用、クイックなコスト最適化の実現
伴走パートナーの選定に着手したヤオコーは、複数の候補の中からサーバーワークスに支援を要請することを決定。ここでは、同社のカルチャーに対する理解が大きな決め手になったといいます。
「候補となったベンダーの中で、ヤオコーの課題やTo-Be像に対してもっとも深い理解を示してくれたのがサーバーワークスでした。エンジニアのコミュニケーション能力に加えて、小売業界での支援実績・ノウハウも豊富なことから、安心して任せられると判断しました」(小笠原氏)
2024年4月から開始した伴走型支援サービス「クラウドシェルパ」による内製化支援では、まずAWS有識者による既存環境の診断を実施。この結果、コスト面での複数の課題が明らかになりました。その中で、AWS運用自動化サービス「Cloud Automator」を活用し、人的な負荷なく、クイックなコスト削減を実現しました。デジタル統括部 プロダクト開発主事の小木佑馬氏は「アセスメントによって環境ごとの設定の差、簡単に始められるコスト削減策を把握できました。それに追随する形でWell-Architectedレビューを行い、課題の抽出・優先度付けが進むことで、どこから着手するべきかが明確になりました」と話します。

小木佑馬氏
その後は本格的な内製化に向けて、AWS活用の標準ガイドラインを策定したうえで、重点的なテーマとして「アカウント統制の強化」「オブザーバビリティ(可観測性)の向上」「運用の自動化」の3つを定め、具体的な取り組みを開始しました。
1つ目のテーマである「アカウント統制の強化」では、AWS Control TowerとAWS Organizationsを利用したマルチアカウント統制環境である統合管理基盤を構築しました。同基盤は、IAM Identity Centerによる社内外ユーザーのAWS利用における認証認可の一元化・統一、AWS Security Hubを中心としたセキュリティ監視・監査といった、マルチアカウント環境を横断で最適化する機能を有しており、AWSを安心安全に利用できるガードレールが備わっています。
現在は、複数のチーム・ベンダーが個別に管理していたアカウントを同基盤の配下に移行し、個々アカウントを手動で管理せずとも、セキュアに顧客サービス提供・業務システム開発ができる環境を実現しています。
2つ目のテーマである「オブザーバビリティ(可観測性)の向上」については、システム全体の稼働状況を統合的に監視・分析するため、新たな運用基盤として「New Relic」を導入し、監視ツールや方式の統合を行い、システム全体インフラメトリクスの監視のみならず、サービス間の通信といったend to endの可視化に向けてNew Relicの導入と構築を支援しました。
「これまでは監視ツールが分散しているが故に、店舗でシステム障害が起きていても、どこに原因があるのか、誰が対応するのかが不明確でした。そこでAWS上にNew Relicを導入し、内製化チームのメンバーがシステムの状況を共有できるダッシュボードを構築しました。今後はインフラだけでなくネットワークにも監視を拡張し、トラフィックを可視化するためのPoCを実施する予定です」(小木氏)
3つ目のテーマである「運用の自動化」については、メンバーが手動で行っていた開発・運用の省力化・自動化を図る取組みとして実施。一例として、Terraformを用いた環境構築について、標準IaCテンプレートを作成、コーディングルールとGithubブランチ戦略といった運用プロセスを整備したCI/CD環境を実現。デジタル統括部 プロダクト開発担当マネジャーの飯久保友哉氏は「サーバーワークスには再利用観点で基礎となるルールおよび基礎モジュール開発の整備を支援いただきました。現在は内製メンバー主体でCI/CDフローを用いた開発・管理ができるようになっています」と話します。

飯久保友哉氏
内製開発力が強化され継続的なコスト最適化も実現
サーバーワークスによる伴走支援は現在(2025年8月時点)も継続しているものの、サービス導入前よりも、チームとしての内製開発力は強化されました。それを象徴するのが、Amazon Connectによるコールセンターシステムの構築です。デジタル統括部 プロダクト開発主事の山田聡美氏は「音声記録のテキスト化、要約文の作成、CRMシステムとの連携までをカバーする新たなコールセンターシステムによって、お客様との通話後の後処理時間(ACW)の短縮に貢献できています。今回のプロジェクトでは、自社の環境や現場の声を踏まえながら構築を進めていく形となりましたが、サーバーワークスには構築からオブザーバビリティの向上まで幅広くご支援いただき、そうした私たちの取り組みを後押ししていただけたことが大変心強かったです」と振り返ります。

山田聡美氏
AWSのコスト最適化についても、継続的な成果が生まれています。
「初回アセスメント段階で実施したコスト削減施策はもとより、その後もEBSの最新世代化(gp3)、EC2のリソースを夜間停止/週末停止、過剰なインスタンスタイプの変更などをしてコスト最適化に取り組みました。そのほか、長期間の利用コミットを行うことでコスト削減が可能なReserved Instance/Savings Plansのコミット期間や、購入オプションの利用について、3年間にわたる中期利用計画と照らし合わせ、最大限割引の恩恵を受けられるような施策を検討・実施することができました」(飯久保氏)
サーバーワークスの伴走支援でさらなる運用の自動化を推進
今後についても、ヤオコーでは引き続きサーバーワークスの伴走支援を受けながら、未解決の課題に取り組んでいく方針です。
「この1~2年でベンダー統合による管理の合理化、コスト削減のほか、AWS上でシステムを“作る”ことについては体系化が進んだ一方、その後の“運用”に関してはまだまだ多くの課題が残されており、目的とするTo-Be像に対しては50%程度にしか達していないと考えています。サーバーワークスには生成AIの活用を含めた、今後の新たな施策の展開に向けて、客観的な視点で背中を押していただけることを期待しています」(小笠原氏)
AWSをはじめとする新たなテクノロジーにチャレンジする多くの機会を社内のメンバーに提供して、デジタル化による業務改善やサービス向上の成果を生み出し、スーパーマーケット業界でも注目を集めるヤオコー。サーバーワークスとのパートナーシップは、今後も同社の成長に大きな貢献を果たしていくはずです。

株式会社ヤオコー様
1890年創業、埼玉県を中心に195店舗(2025年3月末時点)を展開し、連結従業員数3万人以上の大手食品スーパーマーケットチェーン。「豊かで楽しく健康的な食生活を提案する」を経営方針に掲げ、消費者から信頼される商品開発やサービス向上に取り組んでいる。近年ではオリジナル商品の開発にも力を入れ、単なる商品の提供にとどまらず、食を通じて豊かな暮らしを提案し続ける姿勢が多くの顧客に支持されている。2027年3月期を最終年度とする第11次中期経営計画では、事業構造の転換をテーマに各種施策に取り組み、自社の強みを結集してより大きな価値を生み出すことを目指している。
取材に協力いただいた方々
- 小笠原 暁史 氏
- 株式会社ヤオコー 執行役員 CDO(Chief Digital Officer) デジタル統括部長
- 飯久保 友哉 氏
- 株式会社ヤオコー デジタル統括部 プロダクト開発担当マネジャー
- 小木 佑馬 氏
- 株式会社ヤオコー デジタル統括部 プロダクト開発主事
- 山田 聡美 氏
- 株式会社ヤオコー デジタル統括部 プロダクト開発主事
※ この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
担当プロジェクトメンバー
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エンタープライズクラウド本部 本部長 倉田 淳
長年のIT企業での経験を活かし、クラウド黎明期から一貫して事業を推進してきました。前職では大手通信会社のICT専門企業でクラウド部門の責任者として、ソリューションの企画から開発、セールスまで幅広く担当。 2022年11月にサーバーワークスへ入社後は、製造・販売部門を統合した組織を率い、エンタープライズ企業のDXを成功に導くための伴走支援を行っています。
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エンタープライズクラウド本部 クラウドコンサルティング1課 森井 賢弘
前職での金融業界の情シス子会社でのインフラ構築、情報システム部門でのAWS運用・CCoE経験を経て、現在は、エンタープライズ企業向けにAWS利用ガイドラインやマルチアカウント統制運用のための統合管理基盤の構築をご支援しております。
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エンタープライズクラウド本部 クラウドコンサルティング1課 折口 祐介
前職では大手私鉄の情報システム部門でインフラを軸とした構築と運用、AWSの初導入におけるSAPのクラウドリフトや社内システムのリプラットフォームを担当。
2020年2月にサーバーワークスへ入社後は、お客様のクラウド活用における環境最適化やCCoEなどの伴走支援を中心に担当し、現在は、クラウドシェルパの責任者として、クラウドシェルパを軸に、お客様のDX推進を成功に導くための伴走支援を行っています。 -
エンタープライズクラウド本部
エグゼクティブフェロー DX推進コンサルタント 土屋 雄多前職で2011年のAWS東京Region稼働時に小売基幹システムのLiftを手掛ける。クラウドの可能性を感じ約17年間務めたシステムコンサルティング会社から2014年よりサーバーワークスに入社。
エンタープライズ企業へのAWS導入提案、企画、構築~運用、CCoE組織組成、DX推進を多く手掛ける。ファミペイなど大規模案件ではPMOとしてプロジェクト全体の推進にも従事。
流通小売業、金融業、製造業、医療などの業種業界の経験も豊富。また、メインフレーム›オープンシステム›インターネット›クラウドまでITの変遷を渡り歩いている。
選ばれる3つの理由
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Reason 01
圧倒的な実績数による
提案力とスピード- 導入実績
- 1440 社
- 案件実績
- 25600 件
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Reason 02
AWS認定の最上位
パートナーとしての技術力 -
Reason 03
いち早くAWS専業に
取り組んだ歴史